遅かれ、早かれ、恋になりまして。
課長にも八木くんにも、昨日のお礼はちゃんと言わないといけない。
それは分かっているのに、頭の中で一番先に浮かんでしまうのは、どうしても有馬さんの顔だった。
あの落ち着いた声と、気づいた時のさりげない視線が離れなくて、何度振り払おうとしても残ってしまう。
うるさく鳴り続ける心臓を少しでも抑えようとするみたいに、私はそっと胸に手を当てながら電車に乗り込んだ。
いつもと同じ車両、いつもと同じ匂い、いつもと同じはずなのに、今日はやけに全部が違って感じる。
ドキドキしながら車内を見渡してみるけれど、その姿はどこにも見当たらない。
有馬さんはいなかった。
きょ…今日に限って……!
さっきまであんなに暴れていた心臓が、嘘みたいに少しずつ静かになっていくのが分かって、なんだか拍子抜けしてしまう。安堵とも違う、けれどがっかりとも言い切れない複雑な気持ちのまま、小さくため息をついて空いている席に腰を下ろした。
そっか……いないのかぁ……。
「………。」
って、今の私、あからさまに残念がってなかった!?いやいや、別にここで会えなくたって、今日は普通に打ち合わせ入ってるんだから会社で会えるし、むしろそれが普通だし!
心の中で必死に自分へ言い訳を並べているのに、顔がじわじわ熱くなっていくのが止められない。
もう……どうしよう。会えたらいいな、なんて思いたくなかったのに。
そんなこと考えた時点で終わってる気がして、余計に落ち着かない。これじゃまるでストーカーみたいじゃないかと自分で自分に突っ込みを入れて、思わず肩を落とす。
佳奈子のことだって、あれこれ言える立場じゃないかもしれない。