転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
エピローグ
 見上げた空には、雲ひとつない清々しい青空が広がっている。
 図書館を出て日差しの降り注ぐ廊下を進み、アシュリーはいつものように、その腕に頼まれた本を抱えて研究室を訪れていた。
 顔馴染みの研究員に挨拶をすると、予め話が通されていたのか用件を尋ねられることもなく室長室に案内される。そしてノックをして入室の許可を得ると、アシュリーはその部屋に足を踏み入れた。
 相変わらず部屋中には本の山や書類の束が積み上がっている。
 珍しく来客を迎えるためのテーブルの上はいっぱいで、代わりにローウェルはきちんと執務机の前に座っていた。
 最後に顔を合わせたのは、アシュリーがヴィルヘルムと仕事が終わったあとの約束を話していたときだろうか。
 久々に会ったローウェルはいつも通りで、器用に指先でペン回しをしながら、書類を捲っている。アシュリーが持ってきた本をどこに置けばいいのかと逡巡していると、ローウェルがペンを持っている方の手で手招きをした。
 辛うじて床に積み重なった本やら書類やらの被害が出ていないのが幸いか、恐る恐るローウェルに近付いていく。

「持ってきてくれてありがと、アシュリーちゃん。それ、そこの書類の上に置いておいてくれる?」

 ローウェルが指し示したのは、書類と本、それからファイリングの山が積み上がったテーブルだった。
 一瞬呆然としたけれど、アシュリーはすぐに我に返り、持ってきた本を書類の山の上に置いた。幸いなことに崩れ落ちることはなく、ほっと胸を撫で下ろす。
 用は済んだので、図書館に戻ろうとアシュリーが踵を返すと、「あ、そうだ」と、背後から呼びかけられた。振り返るが、ローウェルは手元の資料に目を落としたままだ。
 しかしローウェルはアシュリーが返事をするよりも先に言葉を続けた。

「話はちゃんと、丸く収まった?」

 問いかけられて、一瞬アシュリーの目が丸くなる。しかしその意図を察すると、彼女は頬を僅かに赤く染めた。
 ローウェルが指し示す《話》とは、すれ違っていたヴィルヘルムとの関係のことだ。
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