【執着兄弟の溺愛シリーズ】内緒の三つ子を出産したら、執念で見つけ出した凄腕パイロットから重たい独占愛を刻み込まれる
第二章 偶然の再会
それから一か月が経った六月。職場の同僚たちが推し活や趣味に精を出しているのに触発されて、体でも動かすかと私は一念発起して家の近くにできたジムに入会した。
 中学時代は陸上部に所属していて走るのはそれなりに得意で体力もある。
 とはいえ、大人になってからは一切の運動をしていない。
 仕事終わりにドキドキしながらジムへ行くと、室内は広々としていて清潔で、意外にも女性もたくさんいて雰囲気も良い。
 ひとまず筋トレをした後に有酸素運動でもしようかと、太ももからお尻を鍛えられるレッグプレスという機械に座るが操作が分からない。
「ええっと、ピンを入れて重さを調整して……」
 足の裏をフレートに押し当て、手順通りに見よう見まねでプレートを両足で押す。スムーズにできたとホッとして足を戻すとガシャーンッという大きな音が響き、機械に差し込んでいたピンが外れてしまった。
 周りからの注目を集めてしまい恥ずかしさに顔を赤らめつつ、「すみませんっ」と小声で謝って頭を下げる。
 すると、近くでトレーニングをしていた黒いTシャツ姿の親切な男性が見かねて声を掛けてくれた。
「これ、最後に一気に足の力を抜くと今みたいにすごい音が出ちゃうからゆっくり戻すといいですよ。それと、初心者の方ならまずは二十キロぐらいから始めて徐々に上げたほうがいいかと」
「ありがとうございます。私、今日が初めてで右も左も分からず……。ご迷惑をおかけしました」
「ははっ、そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ。最初は誰だって分からないことだらけですから」
 恥ずかしさにいたたまれずにペコペコ頭を下げる私を男性は笑い飛ばしてくれた。その明るさに救われつつ男性に目を向けた瞬間だった。
「あっ」
 目が合うと、同時に私達は声を上げた。
「もしかして、凜花先生?」
「はい。氷室さん……ですよね?」
「ああ」
 氷室さんは人懐っこい笑みを浮かべる。
今、目の前にいる彼は前回空港で会った時とはまるで別人のようだ。
トレーニング用らしき黒いティーシャツに同色のストレッチパンツにスニーカー。ラフな格好の彼は一見するとパイロットには見えない。
トレーニング後なのか、首筋に薄っすら浮かんだ汗からも男性としての色香を感じてしまうから恐ろしい。
「トレーニング終わったから、機械の使い方とか一通り教えようか?」
 氷室さんは感じの良い笑みを浮かべつつ私を気遣ってくれた。
 けれど、私はありがたい申し出を丁重にお断りすることにした。
「いえ、お気持ちだけいただきます。ご親切にありがとうございます」
「え」
 断られることが意外だったんだろうか。
去っていく私を氷室さんは少しだけ驚いたように目で追う。
 彼からの申し出を断る女性は少ないだろう。
 実際、私の傍でトレーニングをしていた女性たちはチラチラと氷室さんに熱い眼差しを向けていた。
 パイロットとして子どもたちに真摯に接する氷室さんの仕事ぶりは尊敬しているし、好感も持っている。
ひとりでいた雄大くんに声を掛けて連れてきてくれたことも、機械の操作に手こずる私に声をかけてくれたことにも感謝している。
 けれど、誠実そうな男性の優しさにはもう騙されない。私は過去の苦い経験から同じ轍は踏まないと決めたのだ。
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