隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
第25話:絶望
「ひいじい、おてていたい?」
小さな画面に向かって、輝が首を傾げながら無邪気な声で尋ねる。
スマートフォンの向こう側で、及川匠の目元が優しく緩んだ。
「大丈夫じゃよ。輝くんは優しいのう」
山梨の工房に強盗が入ったと聞いたときには、心臓が止まるかと思った。
だが、バールを手にした男たちをパイプ椅子で足止めし、鍬まで持ち出して追い払ったという祖父の武勇伝を聞かされては、呆れ半分で笑い声を出すしかない。
それでも、画面の向こうで白く太い包帯が巻かれた右腕は痛々しい。
胸が痛んだ。
「お祖父ちゃん、くれぐれも無理しないでね」
「おう。弟子がなんだかんだと手伝ってくれるから不便はない。御堂さんのところからお手伝いも手配してもらっとる。心配せんでええ」
画面が暗くなり、蒼乃は静かにスマートフォンを置く。
祖父の無事を確認できたことでようやく安堵の息を漏らしたものの、輝の誘拐未遂の件はいまだに解決の糸口が見えないままだ。
今すぐにでも山梨へ行きたかったが、自分たちの身の回りにも不穏な影がちらついている現状では、それも叶わない。
もどかしさと先の見えない不安が、澱のように胸の底へ溜まっていく。
夜も更け、柔らかい毛布に包まれた輝はすっかり寝息を立てていた。
時計の針は22時を過ぎた。
昂輝はまだ戻らない。
祖父の事件を知らせてくれて以降、彼からの連絡は途絶えていた。
世間を騒がせているスキャンダルや、次々に起こる不測の事態の対応に、きっと息を吐く暇もなく奔走しているのだろう。
蒼乃はリビングのソファに座り、スマートフォンの画面を操作する。経済ニュースの株価ボードを開いた。
慣れないページをようやく開いて、ため息をつく。
御堂ジュエリーの名が刻まれたグラフは、目を覆いたくなるほど極端な右肩下がりを示していた。
「……昂輝」
画面を見つめたまま、今、最も過酷な状況にあるはずの彼の名前を小さく呟く。
同居を始めた日から、昂輝には『帰りが遅くなることが多いから、先に寝ていてほしい』と言われていた。
いつもならその言葉に従うが、今夜はどうしても起きていたい。
祖父の怪我に素早く対応し、人員を手配してくれた彼に、直接きちんとお礼が言いたかった。
それに、あの七井晶子という女性のことも頭から離れない。
一連の不自然な事件の裏に、あの冷ややかな微笑みを浮かべる女性の影があるのではないか。
そんな予感が拭えず、昂輝にその存在を早く話しておくべきだと焦りを感じていた。