隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
「申し訳ありません。仕事が立て込んでいて、見合いだ結婚だというのはすべて断っておりますから」
「まあ、こんなに素敵な男性なのに、もったいないわ」


 晶子はコロコロと楽しげに笑う。

 その瞳の奥には、感情を排した何かが揺らめいていた。


「そうね……私が父に掛け合えば、七井百貨店退店の話はなくなるわね、きっと」
「……七井さん、では、ぜひ」


 すがるように言葉を繋ごうとした昂輝の声を、晶子は人差し指を唇に当てて遮った。


「で? 私は何をいただけるのかしら?」
「……何を、とは?」
「あら、ビジネスの話ですもの。何も差し出さずに自分の意見だけを通そうだなんて、それは難しい事よ。昂輝さんはよくお判りでしょう?」


 昂輝の額から、じっとりとした脂汗が滲み出る。

 彼女は最初から、困窮した御堂を救う対等な取引など求めていない。


 晶子はしなやかな動作で席を立つと、昂輝の後ろへと回り込んだ。

 くるりと身を翻し、張り詰めた昂輝の背中に、香水の甘い香りを漂わせながら抱きつくように寄り添う。


 昂輝の身体が強張るのも構わず、晶子は彼の肩から滑らせるように手を這わせてくる。

 スーッと、仕立ての良い上着の腕を通り、机の上に置かれた昂輝の手の甲まで、長い指先が撫でるように流れる。

 逃がさないと言わんばかりに、そこで動きを止めた。


「私が欲しいもの……お分かりよね、昂輝さん」


 身体が、ピタリと、背中越しに密着してくる。柔らかいものが、不躾に押し付けられる。

 晶子の顔が、昂輝の首元にうずめられた。

 耳元で囁かれる吐息は、熱を帯びている。


「わたし、酔ってしまったわ。ね、昂輝さん。お部屋に送ってくださいな」


 会社を救うために、そして蒼乃たちの未来のために、自分という存在をその身ごと差し出すべきなのだろうか。

 逃れようのない漆黒の絶望が、昂輝の全身を冷たく縛り上げていった。

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