隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
第29話:石の声
深夜の静まり返った書斎に、再び研磨機の金属音が鋭く響き渡る。
輝を寝かしつけ、パジャマの上にエプロンを羽織った蒼乃は、手元の小さなサファイアに全神経を集中させていた。
『石の声を聴きなさい』
昼間、祖父が残した言葉を、耳の奥で何度も何度も反すうする。
どこを削り、どこを残せば、この石は本当の輝きを放つのか。.
回転する円盤に石を押し当て、微細な角度を調整していく。
しかし、どうしても思い通りの面が出ない。焦りが指先に僅かな強張りを生んだ。その瞬間。
ーーガリッ。
嫌な振動が指先から腕へと伝わった。
「あ……あぁ、やっちゃった」
慌てて研磨機を止めると、蒼乃は大きなため息を吐く。
圧をかけすぎてしまった。
手元を確認すると、サファイアの角が痛々しく欠けてしまっている。
蒼乃は顔に張り付いた保護ゴーグルを外し、机の上や床へと視線を落とした。弾け飛んだはずの、小さな青い破片を探さなければならない。
手元に残った欠けた本体を傍らの小さな水入れに浸すと、フローリングの床に膝をつき、両手を這いつくばらせるようにして目を凝らした。
カチャリ。
背後で静かにドアが開く。
「あれ、何してるの?」
「あ、お帰りなさい。ごめん、石が欠けちゃって。たぶん破片がどこかに……って、え、もうそんな時間?!」
時計の文字盤に目をやった蒼乃は、声を裏返らせた。
針はちょうど深夜の0時を回ったところを指している。随分と集中して時間を忘れてしまっていたらしい。
上着を脱ぎ、ネクタイを緩めた昂輝は、慌てふためく蒼乃の姿を見て、ふっと目元を和らげた。
彼はスラックスの膝が汚れるのも厭わず、そのまま床に膝をつくと、一緒に目を皿のようにしてフローリングの上を探してくれる。
「蒼乃、あったよ」
数分後、少し離れたデスクの脚元を覗き込んでいた昂輝が、声をかけた。
彼の長い指先の上に、室内の灯りを反射してキラキラと輝く、ごく小さな青のカケラが乗っている。
「ありがとう」
「……やっぱり、むずかしそう?」
破片を受け取りながら、蒼乃は小さく肩を落とした。
二人はそのまま、並んで床に座り込んだ。
「うーん、ごめん。正直、大口を叩いてしまって申し訳ない気持ち」
あの夜『私が昂輝を助ける』と、彼の目を真っ直ぐに見据えて宣言した。
しかし現実にはまだ、御堂ジュエリーの命運を握る、くだんの原石には触れることすらできていない。
このまま試作の石すら満足に磨けず、失敗を繰り返したまま、東京ジュエリーショー当日を迎えることになるのではないか。
そんな暗い見通しが胸を過る。
輝を寝かしつけ、パジャマの上にエプロンを羽織った蒼乃は、手元の小さなサファイアに全神経を集中させていた。
『石の声を聴きなさい』
昼間、祖父が残した言葉を、耳の奥で何度も何度も反すうする。
どこを削り、どこを残せば、この石は本当の輝きを放つのか。.
回転する円盤に石を押し当て、微細な角度を調整していく。
しかし、どうしても思い通りの面が出ない。焦りが指先に僅かな強張りを生んだ。その瞬間。
ーーガリッ。
嫌な振動が指先から腕へと伝わった。
「あ……あぁ、やっちゃった」
慌てて研磨機を止めると、蒼乃は大きなため息を吐く。
圧をかけすぎてしまった。
手元を確認すると、サファイアの角が痛々しく欠けてしまっている。
蒼乃は顔に張り付いた保護ゴーグルを外し、机の上や床へと視線を落とした。弾け飛んだはずの、小さな青い破片を探さなければならない。
手元に残った欠けた本体を傍らの小さな水入れに浸すと、フローリングの床に膝をつき、両手を這いつくばらせるようにして目を凝らした。
カチャリ。
背後で静かにドアが開く。
「あれ、何してるの?」
「あ、お帰りなさい。ごめん、石が欠けちゃって。たぶん破片がどこかに……って、え、もうそんな時間?!」
時計の文字盤に目をやった蒼乃は、声を裏返らせた。
針はちょうど深夜の0時を回ったところを指している。随分と集中して時間を忘れてしまっていたらしい。
上着を脱ぎ、ネクタイを緩めた昂輝は、慌てふためく蒼乃の姿を見て、ふっと目元を和らげた。
彼はスラックスの膝が汚れるのも厭わず、そのまま床に膝をつくと、一緒に目を皿のようにしてフローリングの上を探してくれる。
「蒼乃、あったよ」
数分後、少し離れたデスクの脚元を覗き込んでいた昂輝が、声をかけた。
彼の長い指先の上に、室内の灯りを反射してキラキラと輝く、ごく小さな青のカケラが乗っている。
「ありがとう」
「……やっぱり、むずかしそう?」
破片を受け取りながら、蒼乃は小さく肩を落とした。
二人はそのまま、並んで床に座り込んだ。
「うーん、ごめん。正直、大口を叩いてしまって申し訳ない気持ち」
あの夜『私が昂輝を助ける』と、彼の目を真っ直ぐに見据えて宣言した。
しかし現実にはまだ、御堂ジュエリーの命運を握る、くだんの原石には触れることすらできていない。
このまま試作の石すら満足に磨けず、失敗を繰り返したまま、東京ジュエリーショー当日を迎えることになるのではないか。
そんな暗い見通しが胸を過る。