隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
 昂輝は水入れの中に沈んでいる、少し欠けたサファイアを覗き込む。


「これも綺麗だな」
「うん。欠けちゃって、石に申し訳ないわ」


 蒼乃が水につけていたものを取り出す。

 表面に膜を張った石は、照明の下で瑞々しくキラキラと輝いた。


「うん、すごく綺麗だ」


 昂輝が指先で石を挟み、天井の照明の光にかざす。

 蒼乃は、ポケットから一本のペンライトを取り出した。


「見て。この子はここが一番光るの」


 昂輝の手元に寄る。
 石の真横からすっと光を当て、斜め上を照らし出す。

 すると、サファイアの奥底から、まるで命が吹き込まれたかのような鮮烈な青い光彩が溢れ出た。


「本当だ」


 昂輝の顔が、生き生きとしたものに変わる。

 初めて出会った頃。
 研磨体験のイベントで、夢中になって夕方まで石を磨き続けた昂輝。

 あの時の、石の美しさに純粋に心を奪われている青年の表情だ。

 それを見て、蒼乃の強張っていた頬の筋肉が自然と綻んでいく。


「なかなか難しいわ。お祖父ちゃんは『石の声を聴け』って言うけれど、口を聞くわけじゃないし」


 自分の技術の不甲斐なさに落ち込みつつも、今は少しだけ、昂輝と話をして、張り詰めた気分を変えたかった。


「輝みたいに、聞いたらなんでも答えてくれたら良いのに」


 お喋りが大好きなあの子なら、どこが痛いか、何が楽しいか、どうしてほしいか、何でも教えてくれる。


「……じゃあ、聞いてみたら良いんじゃないか?」
「え?」


 昂輝がポツリと溢した言葉に、蒼乃は目を瞬いた。


「輝が話す時は、輝が話しやすいように蒼乃がいろいろ聞くだろう。同じように、蒼乃が石に聞いてみたら、石が答えてくれるかもしれない」


 昂輝の口から、するりと、そんな柔らかい言葉が聞こえてくる。

 彼が、そんな非科学的で、まるでおとぎ話のようなことを言う人だとは思わなかった。


 だが、その言葉は不思議と、蒼乃の頑なな心を柔らかく解きほぐしていく。


 蒼乃は再びサファイアにライトを当て、その青い深みをじっと覗き込んだ。


「……ねえ、あなたはどうやって光りたい? どんな風に、磨かれたいかしら?」


 石は、何も答えない。

 しかし書斎には、先ほどまでの刺すような緊張感に代わり、静かで、おだやかな時間が満ちていた。



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