隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
 叔父の怒号を浴びながら、昂輝は拳を固く握りしめた。

 会社を揺るがすスキャンダルの渦中で、七井百貨店を統べる七井家という巨大な組織を敵に回す恐怖に、叔父は、正気を失っている。


 逃げ場なく張り巡らされた網が、完璧な策略によって真価を発揮しつつあった。

 晶子はハンカチを下げ、再び優雅に、しかし峻厳な眼差しを昂輝へと向けた。


「良いんです、昂輝さんのおじさま。私だって人間ですもの、少しは待てます」


 晶子は爪先を弄びながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「東京ジュエリーショー。その当日まで待ちますわ。だって、昂輝さんったら色々と大変でしょう?」


 彼女の軽やかな声に、叔父が飛びつく。


「ああ、なんて慈悲深い。理解のあるお嬢さんなんだ」


 叔父の言葉を鼻で笑うように、晶子の視線が昂輝の顔をねっとりと這った。


「そのかわり、わかっているわね昂輝さん。ジュエリーショーの日には、私に結婚を申し込んでくださらなきゃダメよ。でなければ……この写真を持ってあなたを婦女暴行で訴えることになるわ」


 会議室の空間に、晶子が纏う濃厚な香水の香りが、勝利の予感とともにまとわりつくように充満していく。


 七井家という、社会的に地位の高い相手。

 もし彼女が訴えを起こせば、昂輝個人の破滅だけでなく、御堂ジュエリーの歴史は完全に幕を閉じるだろう。


 昂輝は、だまって晶子を睨みつけると、そのまま部屋を出た。








 蝶よ花よと、育てられた。


 最高の美貌を持って生まれた。

 最高の教育を受けさせられた。

 お茶、お華、踊り、英会話、フランス語、バレエにピアノとヴァイオリン。

 あらゆる習い事に、定期的な海外旅行。

 最高の教養を享受した。

 七井家の社長令嬢として生まれた自分は、物心がついてからというもの、何かが欠けることは、許されなかった。



 誰からも、うらやましがられる存在でいなければならない。

 すべてを手に入れた存在にならなければならない。

 そのためにはあと一つ。


 最高のパートナーが必要だ。


「私たち、完璧な夫婦になれるわ」


 昂輝のいなくなった応接室にぽつりと、七井晶子のつぶやきが落とされた。
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