隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
第5話:コーンフラワー
東の空がごく薄い灰色に染まり始めた頃、御堂昂輝の車は山梨の隘路を走り抜けていた。
一睡もせず、ただひたすらにアクセルを踏み込み続けた身体は、奇妙なほどに冴え渡っている。
心臓の鼓動が耳の奥で、警鐘のように大きな音を立てていた。
蒼乃が暮らすアパートの前に車を滑り込ませると、昂輝はエンジンを切り、シートを蹴るようにして外へ出た。
冷たい朝の空気が肺を突く。
彼は階段を駆け上がり、色褪せた緑色のドアの前に立った。
逸る心を抑えきれず、握り拳で金属のドアを叩く。
「蒼乃。蒼乃、いるか!」
返事はない。
ただ、近隣の部屋から微かに漏れる目覚まし時計の音が聞こえるだけだ。
もう一度叩こうと手を伸ばしたが、ふと、思い立ってノブを回してみる。
鍵がかかっていない。
昂輝は胸に嫌な予感を覚えながら、ドアを押し開けた。
「蒼乃……」
足を踏み入れた瞬間、吸い込まれるような冷気に肌が粟立った。
部屋の様子がおかしい。
玄関に並んでいるはずの靴がない。
三和土に置かれていた、トランクもない。
部屋の奥を見渡すと、開け放たれたクローゼットが目に入る。しかし、そこに下がっていた服がない。
洗面台からは使い慣れた化粧品が消えている。
生活の気配を残す小物は一切消え失せていた。
一人暮らし用の小さな冷蔵庫。電子レンジ。折りたたみテーブル。畳まれた布団。
主人を失った荷物だけが、さみしげに残されている。
窓辺に下げられた灰色のカーテン。その隙間から、朝日が差し込んでいた。