隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
及川工房が、新興のジュエラにーに狙われている。
金融機関と結託したジュエラーが、街金業者なども巻き込み及川に借金を重ねさせ、工房を乗っ取ろうと画策していると、ある方面から情報が入った。
許せなかった。
昔、くだんのダイヤモンドを見た昴輝は、父親に頼み込み、及川の工房へ連れて来てもらったことがある。
どんな人が、あの煌めく石から真の輝きを引き出したのか、知りたかった。
出迎えた及川は、特に目立ったところのない、普通の老人だった。
当時小学生だった昴輝に、石の見分け方や、磨き方を丁寧に解説してくれた。
『石の声を聴くんだ』
穏やかながら芯のあるその声が、忘れられなかった。
乗っ取りを察知した昂輝は、御堂ジュエリーでの買収を急いだ。
彼らの先手を打って及川工房を自社の傘下に引き入れ、その高い技術と職人たちを保護するためだ。
強引とも言える超短期での買収を急ぎ準備するしかなかった。
すべては、日本の財産とも言える研磨師を守るため。
もし、あの工房が蒼乃の祖父の工房であると知っていれば、もっと別の、彼女を傷つけないやり方があったはずだった。
少なくとも、先に事情を伝えることはできた。
取り返しのつかない誤解を生んでしまった。
あの時、工房に現れた蒼乃の傷ついた表情が、今も脳裏に焼き付いて離れない。
胸の奥から湧き上がる、逃れようのない焦燥感が、昴輝の心を激しく掻き乱していた。
「……話せば、わかってくれるはずだ」
すべての書類にサインを終えた昂輝は、上着を掴むと部屋を飛び出した。
社用車ではなく、自分の車に乗り込む。
真夜中の東京を抜け、山梨へと向かう高速道路へと車を滑らせた。
漆黒の闇が支配する高速道路を、車のヘッドライトが鋭く切り裂いていく。
ハンドルを握る昂輝の表情は、これまでにないほど険しく、その指先は微かに震えていた。
「蒼乃……」
口の中で、最愛の女性の名前を呟く。
すべてを正直に話せば、きっと誤解は解ける。まだ間に合う、まだ取り返しがつかなくなる前だ。
自分にそう言い聞かせるようにして、昂輝はアクセルをさらに深く踏み込む。
一刻も早く彼女を抱きしめ、その不安を消し去りたかった。