隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
はやる気持ちを抑え、日が完全に昇るのを待つ。
昂輝は及川工房の扉をくぐっていた。
規則的な研磨機の音が響く作業場では、数人の職人たちが作業をしている。
及川匠は事務机に座ったまま、何かを読んでいた。
昂輝の気配に気づいた及川は、彼に来客用の椅子を勧める。
「あの……」
「御堂さん、あんた、うちの蒼乃と知り合いでしたかね?」
するどい質問が飛ぶ。
しかし、考えてみれば当たり前だ。『他のものをよこす』と言って帰った男が、翌日の朝から血相を変えて飛び込んできた。
昨日、蒼乃の様子もおかしかったのだろう。
何かを察したらしい老人は、一枚の紙を、昂輝に渡した。
『いつか連絡します。健康でいてください』
蒼乃の字だ。
「大人しそうに見えても、あいつは利かん気が強いからな」
及川は自分に言い聞かせるように呟いた。その顔には、寂しげなあきらめが張り付いている。
及川は眼鏡を外し、深く刻まれた目元の皺をさすりながら、昂輝を見つめた。
「そのうち、戻るでしょうよ」
寂しそうなその言葉が、昂輝の胸に鋭く突き刺さる。
自分だけではない。
蒼乃が大好きだと言っていた祖父。及川から孫を引き離してしまったのだ。
罪悪感で息が詰まりそうになり、喉の奥が引き攣った。
「……言い訳に聞こえたら、申し訳ありません。ですが……白河さんが及川さんのお孫さんだとは、知りませんでした」
それ以上のことは、何も言えなかった。
自分が彼女の心を粉々に砕いたのだ。
行く先も告げられないほどの恐怖を与えた張本人が自分だと、目の前の老人に打ち明ける資格さえ自分にはない。
昂輝は拳を固く握りしめたまま、逃げるようにして工房を後にした。