隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~

第15話:ひいじい



「ママ、おやまがある!」


 特急列車の窓ガラスに小さな両手をピタッと押し当て、四歳の輝が弾んだ声を上げた。

 靴を脱いで座席の上に立ち、短い指で流れる景色を指さしている。


 白河蒼乃は、そんな輝の小さなお尻を片手で優しく支えながら、窓の外へと視線を向けた。

 青く澄んだ空の下に、懐かしい山々の稜線が幾重にも重なり合って広がっている。

 東京から中央線に揺られて数時間。
 車窓の緑は濃くなり、差し込む光もどこか柔らかさを増す。


「そう。山だけはたーくさんあるんだから」


 輝の頭を優しく撫でながら、蒼乃の胸の奥には微かな緊張が走っている。



 一週間前、勢いのままに電車のチケットを取ってしまった。

 五年ぶりの帰郷。
 逃げるように去った故郷の空気は、思った以上に優しく、それゆえに彼女の罪悪感を静かに駆り立てる。

 甲府駅で列車を降り、手配していたレンタカーに乗り換え、さらに車を走らせた。

 窓の隙間から入り込む風の匂いが、アスファルトのものから、土と草の混ざった懐かしいものへと変わっていく。

 山道を登り、見覚えのある生垣を曲がったところで、蒼乃は静かにブレーキを踏んだ。


 たどり着いたのは、祖父の工房だ。

 御堂ジュエリーの傘下になったはずだが、門柱には五年近く前と変わらず、少し色褪せた、けれど丁寧に磨かれた『及川工房』の木製看板が、そのままの姿で掲げられていた。


 車を降り、輝の手を引いて玄関へと歩く。

 古い格子戸の前に立つ。
 田舎だ。鍵などかかっていない。この扉を開ければ、祖父が居る。

 扉に手を伸ばす。

 だが、蒼乃の指先は氷のように冷たく固まった。


 五年間の不義理。
 何も言わずに失踪した自分を、祖父は許してくれるだろうか。

 激しい後悔が足元から這い上がってくるようで、膝が細かく震えた。玄関前に立ち尽くす。

 その時、内側からカラカラと、扉が静かに引き開けられた。


「……蒼乃か?」


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