似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
※優斗視点
優斗はこのところ、随分と調子が良かった。
それは煩わしい政略結婚騒動を回避できたということも大きいが、何より結婚相手に選んだ美空の存在が大きかった。
(不眠はほとんど解消したし、食生活も改善されたおかげで疲れにくくなった)
美空には感謝してもしきれない。
しかしお礼を伝えても彼女は謙遜してばかりで、どこか自信なさげだった。
(まだ元カレと同じ職場で働いているんだったな。本業をさせてもらえないのも原因なんだろうか……)
気にはなっていたが、彼女は職場の事をあまり話したがらない。
優斗も無理に聞く気はなかった。
(俺みたいなただの契約結婚の相手に、相談はしないか)
けれど、疲れたような表情をしている彼女を見ていると、どうにか元気づけたいという気持ちが芽生えていた。
『優斗さんも一緒にどうですか?』
『一人で食べるより美味しいじゃないですか』
『……疲労回復と安眠しやすいっていう食材を使ってみようかと』
彼女が優斗を気遣う度、その気持ちは日に日に強くなっていった。
(今度何かお礼をしようか。でも何が良いんだろうか)
何も思いつかないまま、仕事に忙殺される日々が続いていた。
ある日。いつものように朝のカンファレンスを終えると、医局に佐田がやって来た。
「宮倉ー、去年学会で報告されてたネプリライシン阻害系の新薬のことなんだけど、小児への適用例ってなかったっけ?」
「心不全のか? あっはずだが……。そうか、次の学会用か。佐田が行くんだっけ?」
「そうだよー。上から押し付けられたの。まだ資料まとまんなくて」
佐田はげんなりとした表情でうなずいた。佐田は現場で子供を診るのが生き甲斐というタイプだから、学会の参加は不本意なんだろう。分からなくもない。
「家にまとめた資料があるから今度持ってくる」
優斗がそう告げると、佐田の表情が一気に明るくなる。
「助かる! やっぱ持つべきものは心臓外科医の同僚だな。お前が困ったときは俺が力になるよ」
「相変わらず調子良いな。……そうだ、佐田ってしんどい時はどうやって気分転換してるんだ?」
美空へのお礼のヒントになるかもしれない。ふと尋ねると、佐田はさらに嬉しそうな顔になった。
「お? なんだなんだ、相談か? 俺はやっぱり温泉だな。あ、もしかして奥さん関係か?」
「まあ。彼女、疲れてるみたいだから」
優斗の言葉に佐田は「それを早く言えよ」と良いながら少し真剣に思案し始めた。
「宮倉の奥さんってどんな感じなんだ? 全然噂も聞かないし、派手好きじゃなさそうだな。うーん、疲れてるなら、無難にスパとかが良いんじゃないか? 温泉にスパに旨い料理があれば最高だろ。あーあ、俺も彼女連れて温泉旅行してー」
真面目に考えてくれたと思ったのに、着地点が佐田らしい。
「じゃあまずは恋人見つけないとな」
優斗が口角をあげると、佐田は悔しそうに呻き声をあげた。
「くぅー! 既婚者が余裕見せつけやがって。あー、宮倉は明日休みじゃん。楽しんでこいよ!」
(温泉にスパか。悪くない。俺も前は時々行ってたけど、最近はご無沙汰だったな)
佐田が去った後、美空のスケジュールを確認しているとスマホが震える。ちらりと見ると「母」と表示されていた。
げんなりした気持ちで電源を切ると、そのまま仕事を再開した。
それは煩わしい政略結婚騒動を回避できたということも大きいが、何より結婚相手に選んだ美空の存在が大きかった。
(不眠はほとんど解消したし、食生活も改善されたおかげで疲れにくくなった)
美空には感謝してもしきれない。
しかしお礼を伝えても彼女は謙遜してばかりで、どこか自信なさげだった。
(まだ元カレと同じ職場で働いているんだったな。本業をさせてもらえないのも原因なんだろうか……)
気にはなっていたが、彼女は職場の事をあまり話したがらない。
優斗も無理に聞く気はなかった。
(俺みたいなただの契約結婚の相手に、相談はしないか)
けれど、疲れたような表情をしている彼女を見ていると、どうにか元気づけたいという気持ちが芽生えていた。
『優斗さんも一緒にどうですか?』
『一人で食べるより美味しいじゃないですか』
『……疲労回復と安眠しやすいっていう食材を使ってみようかと』
彼女が優斗を気遣う度、その気持ちは日に日に強くなっていった。
(今度何かお礼をしようか。でも何が良いんだろうか)
何も思いつかないまま、仕事に忙殺される日々が続いていた。
ある日。いつものように朝のカンファレンスを終えると、医局に佐田がやって来た。
「宮倉ー、去年学会で報告されてたネプリライシン阻害系の新薬のことなんだけど、小児への適用例ってなかったっけ?」
「心不全のか? あっはずだが……。そうか、次の学会用か。佐田が行くんだっけ?」
「そうだよー。上から押し付けられたの。まだ資料まとまんなくて」
佐田はげんなりとした表情でうなずいた。佐田は現場で子供を診るのが生き甲斐というタイプだから、学会の参加は不本意なんだろう。分からなくもない。
「家にまとめた資料があるから今度持ってくる」
優斗がそう告げると、佐田の表情が一気に明るくなる。
「助かる! やっぱ持つべきものは心臓外科医の同僚だな。お前が困ったときは俺が力になるよ」
「相変わらず調子良いな。……そうだ、佐田ってしんどい時はどうやって気分転換してるんだ?」
美空へのお礼のヒントになるかもしれない。ふと尋ねると、佐田はさらに嬉しそうな顔になった。
「お? なんだなんだ、相談か? 俺はやっぱり温泉だな。あ、もしかして奥さん関係か?」
「まあ。彼女、疲れてるみたいだから」
優斗の言葉に佐田は「それを早く言えよ」と良いながら少し真剣に思案し始めた。
「宮倉の奥さんってどんな感じなんだ? 全然噂も聞かないし、派手好きじゃなさそうだな。うーん、疲れてるなら、無難にスパとかが良いんじゃないか? 温泉にスパに旨い料理があれば最高だろ。あーあ、俺も彼女連れて温泉旅行してー」
真面目に考えてくれたと思ったのに、着地点が佐田らしい。
「じゃあまずは恋人見つけないとな」
優斗が口角をあげると、佐田は悔しそうに呻き声をあげた。
「くぅー! 既婚者が余裕見せつけやがって。あー、宮倉は明日休みじゃん。楽しんでこいよ!」
(温泉にスパか。悪くない。俺も前は時々行ってたけど、最近はご無沙汰だったな)
佐田が去った後、美空のスケジュールを確認しているとスマホが震える。ちらりと見ると「母」と表示されていた。
げんなりした気持ちで電源を切ると、そのまま仕事を再開した。