似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
 その日の夕方。めずらしく残業なく帰れる日だったのに、優斗は自分の家ではなく実家へ向かっていた。
 帰り際に観念してスマホを開くと、優斗の母から「家に寄るように」と連絡が来ていたのだ。

(しばらく呼び出しは無いと思っていたのに……)

 仁美との婚約を破棄し、美空と結婚したことで優斗の父は憤怒している。
 連絡してきたのは母だったが、優斗の気持ちは重かった。

(それもこれも、あかつき総合医療センターが大きくなりすぎたせいだ)


***

 あかつき総合医療センターは、祖父の代に創設した個人医院が始まりだった。
 それが総合病院となり、特に救急医療に力を入れることで地域に根差していった。

『どんな患者でも受け入れる』

 それがあかつき総合医療センターの信念だ。
 しかし、ハイペースで患者を受け入れ続けたことで問題が生じた。

 それが病床数の不足だ。経営だけ見れば、ありがたい事この上ないが、病院は利益だけでは成り立たない。
 どうにかして病床を確保しようにも、近くに使える土地も無い。

 この問題を解決するために、優斗の父は『小野リハビリ総合病院と業務提携する』という策を打ち出した。
 小野リハビリ総合病院は老朽化のため立て替えが必要だったが、資金力がない。優斗の父はそこに目をつけたのだ。
 資金を提供する代わりに回復期の患者を受け入れてもらう。そのための業務提携だった。

 だが父は単なる業務提携にするつもりはないようだった。

『優斗と近い歳の娘がいただろう。その娘と結婚しろ。あかつきは小野リバビリを傘下に入れる。そのためには相手を取り込む必要がある』

 と言い放ったのだ。

(祖父が生きていれば穏便に提携出来ただろうが……)

 優斗の祖父は、向こうの理事長と親しい間柄だった。もともとは交流もあったのだが、祖父が亡くなり父が病院経営に回ってからは、ほとんど関わることは無くなっていた。
 利益重視の父にとっては、無駄な交流だったのだろう。

(それが今や小野リハビリ総合病院の力を借りなければならない。皮肉なものだな)

 優斗にとっては別に結婚はどうでもいい事だった。
 父の言いなりになるのは癪だったが、病院の経営のためだと分かっていたから反対もしなかった。

 婚約した仁美は、祖父がまだ生きていた頃に遊んだこともあったし、抵抗もなかった。
 けれど久しぶりに会った仁美は変わってしまっていた。

『もっと他の医療法人の方と交流すべきよ』
『なぜこの間のパーティーに参加しなかったの? 人脈が途切れてしまうわ』
『優斗が消極的だから私が走り回ってるんじゃない!』

 仁美はとにかく人脈作りに必死だった。資金不足だった小野ハビリ総合病院のことを考えれば、分からなくもない。
 けれどSNSで婚約を拡散したり、とにかくパーティーに参加するのは優斗には合わなかった。

 仁美は仁美。自分は自分。互いに出来ることをすれば良い。
 そんな風に本人の自由だと放っていたのが悪かったらしい。

 気がつくと、仁美は別法人の若手の医師と「人脈作り」と称して浮気を繰り返していたのだ。

『全部病院のためだった! 私にはこれしか出来ないものっ! でも優斗がそんなに怒るなら、もう止めるわ』

 浮気が発覚したとき、仁美は悪びれもなくそう言ってのけた。

(こいつとやっていくのは無理だ)

 まるで優斗が我儘を言ったから仕方なく止めるという態度に、うんざりしたのだ。

 そこからは泥沼だった。美空が現れなければ、今も纏わりつかれていただろう。


***

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