似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
4決別
 それから数日後。美空は家で転職活動を進めながら一人で過ごしていた。

「今日は前エントリーしたオンライン講師のところから連絡が来ていたから、面談の日程を連絡して……」

 何もしないでいると自分だけが取り残された気持ちになるが、こうやって転職活動をしていると気が紛れた。

(結局、仁美さんとの話し合いも来週に決まったから、今週は時間があるんだよね。色々な企業を調べてエントリーしておこうかな。ジムのインストラクター以外だって良いんだから)

 カチカチとパソコンで転職サイトを眺めていると、時間があっという間に過ぎていく。
 朝からずっと調べていたのだが、気がつくともう昼前だった。

「そろそろ昼ご飯の準備しなきゃな」

 凝り固まった身体をぐーっと伸ばす。
 すると、玄関のインターホンが鳴り響いた。

(ん? なにか荷物頼んだっけ? 優斗さんかな?)

 急いで部屋を出て、リビングにあるインターホンのモニターを覗くと、そこには見知った女性が立っているのが見えた。

「仁美さん……どうして」

 美空はその場で固まってしまった。
 会うのは来週のはずだ。それに今日は優斗も仕事でいない。
 なぜ仁美がここに来たのか分からなかった。

(出た方がいいの? でも優斗さんがいないのに、勝手に会っていいのかな?)

 悩んでいると再度インターホンが鳴らされた。どうやら帰る気はないようだ。
 仕方なく「はい」と対応すると、モニター越しに仁美が微笑むのが見えた。

「お久しぶり。少し話せないかしら?」
「……優斗さんはいませんけど」
「分かってるわよ。彼がいないから来たの。美空さんと話がしたいのよ」
「私は話なんてありません。お、お引き取りください」

 美空の声が震えた。
 仁美は楽しそうにクスクスと笑うと、「怖がらないで」と甘くささやいた。

「優斗やお祖父様から聞いたかもしれないけど、あの二人、業務提携しようとしてるでしょ? でも残念だけど上手くいかないのよ。どうしてか、貴女にだけ教えてあげる。だから開けて」
「そ、そんなこと言われたって……」
「あの二人は私の発言に耳を貸さないもの。だから貴女を頼るしかないの。ねえ、病院が倒産したら困るのは貴女もでしょう?」

 仁美の言葉に美空はひどく困惑した。

(病院が倒産? でも……嘘かもしれない。優斗さんや小野さんがそんなこと見落とすはずかない)

 けれども自信たっぷりに微笑んでいる仁美を見ると、気持ちが揺らぐ。
 美空はとうとうエントランスの扉を開けてしまった。

「あら、ありがと」

 仁美の姿がモニターから消える。もうすぐこの家の玄関に彼女がやって来る。
 美空の心臓はドキドキと煩く音を立てていた。


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