似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
「急に来ちゃってごめんなさいねえ」
部屋に入ってきた仁美は我が物顔で真っ直ぐリビングへと進み、席についた。
いつも美空が座っている席に――。
「さっきの話はどういうことですか?」
「そんな怖い顔しないで。ちゃんと話してあげるから。あかつきが小野リハビリに資金提供をするかわりに、小野リハビリはあかつきに病床の提供する。それは聞いているかしら?」
仁美の言葉に美空はうなずく。この間、優斗から聞いた話と相違ない。
「でもね、これは元々私と優斗が結婚することが前提の話なの。結婚して身内になってしまえば、互いに約束を破りにくくなるでしょう? でも、今あの二人が進めている提携にはその『枷』がない。どちらかが簡単に裏切れる契約ってこと」
「それは、お二人のどちらかが裏切るということ?」
美空の言葉に仁美はふっとバカにしたように口角を上げた。
「あの二人は根っからのバカ真面目だからしないでしょうね」
「じゃあ……」
「でも周囲の人はどうかしら?」
「え?」
美空が困惑していると、仁美はゆっくりと立ち上がって美空の目を覗き込んだ。突き刺すような瞳が美空を貫く。
「優斗のお父様に会ったことあるわよね? あの人にとって大切なのはあかつき総合医療センターだけ。傘下にもならない他人の病院に対して、本当に資金提供するかしら?」
美空の脳裏に優斗の父が思い浮かぶ。
(確かに冷たそうな人だったし、優斗さんと少し険悪だったけど……)
「それに、私の父も似たようなものよ。自分の娘を蔑ろにした病院のために患者を受け入れるなんて、するかしら? ……どう? これでもお花畑みたいな業務提携が上手くまとまると思う?」
部屋に沈黙が広がる。
(違う……)
仁美は美空を見ながら楽しそうに微笑んでいた。
「分かったでしょう? 私と優斗との結婚が必要だって。優斗のことを思うなら、さっさと離婚してちょうだい」
仁美が勝ち誇った表情で美空に優しく告げる。
けれど、美空は仁美に対して怯える気持ちが消えていた。
(仁美さん……違うよ)
美空の気持ちはいつのまにか落ち着いていた。
「……私は、仁美さんの考えが間違っていると思います」
美空はポツリと呟いた。
「はあ? こんなに丁寧に説明してやったのに、あんたバカなの?」
「でも、前提が違います。小野さんや優斗さんがそういう契約の穴を見落としているとは思いません。それに……優斗さんのお父様はそこまで悪い方だとは思いません。利益を追求するというなら、業務提携先に不義理を働いて信頼を落とすような行為はなさらないと思います。仁美さんのお父様については存じ上げないので分かりませんが……」
美空は結婚の挨拶をした日を思い出していた。
優斗の父は確かに優斗に対して冷たい態度をとっていた。
けれど――。
『美空さん。未熟な奴ですが、どうかよろしく頼みます。『あかつき』を継ぐのはこいつですから』
『こちらも筋は通す。後は自分でけじめをつけろ』
そう言ったのだ。
(お父様は私と優斗さんの結婚を認めてくれた。それに、優斗さんに病院の跡を継がせるつもりでいる。優斗さんのやり方を尊重するはず)
言い方は冷淡だったが、優斗の手腕を認めているのだ。仁美が言うような最悪の事態が起こるとは思えない。
「ですから、私が離婚する必要も、仁美さんが優斗さんと結婚する必要もないんです」
美空が静かに伝えると、仁美の眉がピクリと動いた。
先程までの表情は抜け落ち、無表情で美空を見つめている。
「……ムカつく」
「えっ?」
「なんでっ……なんで、あんたは認められてるの!? 私じゃダメだったのに! 私には結婚しかないのにっ!!」
金切り声が部屋に響く。
仁美は目に涙を浮かべていた。
部屋に入ってきた仁美は我が物顔で真っ直ぐリビングへと進み、席についた。
いつも美空が座っている席に――。
「さっきの話はどういうことですか?」
「そんな怖い顔しないで。ちゃんと話してあげるから。あかつきが小野リハビリに資金提供をするかわりに、小野リハビリはあかつきに病床の提供する。それは聞いているかしら?」
仁美の言葉に美空はうなずく。この間、優斗から聞いた話と相違ない。
「でもね、これは元々私と優斗が結婚することが前提の話なの。結婚して身内になってしまえば、互いに約束を破りにくくなるでしょう? でも、今あの二人が進めている提携にはその『枷』がない。どちらかが簡単に裏切れる契約ってこと」
「それは、お二人のどちらかが裏切るということ?」
美空の言葉に仁美はふっとバカにしたように口角を上げた。
「あの二人は根っからのバカ真面目だからしないでしょうね」
「じゃあ……」
「でも周囲の人はどうかしら?」
「え?」
美空が困惑していると、仁美はゆっくりと立ち上がって美空の目を覗き込んだ。突き刺すような瞳が美空を貫く。
「優斗のお父様に会ったことあるわよね? あの人にとって大切なのはあかつき総合医療センターだけ。傘下にもならない他人の病院に対して、本当に資金提供するかしら?」
美空の脳裏に優斗の父が思い浮かぶ。
(確かに冷たそうな人だったし、優斗さんと少し険悪だったけど……)
「それに、私の父も似たようなものよ。自分の娘を蔑ろにした病院のために患者を受け入れるなんて、するかしら? ……どう? これでもお花畑みたいな業務提携が上手くまとまると思う?」
部屋に沈黙が広がる。
(違う……)
仁美は美空を見ながら楽しそうに微笑んでいた。
「分かったでしょう? 私と優斗との結婚が必要だって。優斗のことを思うなら、さっさと離婚してちょうだい」
仁美が勝ち誇った表情で美空に優しく告げる。
けれど、美空は仁美に対して怯える気持ちが消えていた。
(仁美さん……違うよ)
美空の気持ちはいつのまにか落ち着いていた。
「……私は、仁美さんの考えが間違っていると思います」
美空はポツリと呟いた。
「はあ? こんなに丁寧に説明してやったのに、あんたバカなの?」
「でも、前提が違います。小野さんや優斗さんがそういう契約の穴を見落としているとは思いません。それに……優斗さんのお父様はそこまで悪い方だとは思いません。利益を追求するというなら、業務提携先に不義理を働いて信頼を落とすような行為はなさらないと思います。仁美さんのお父様については存じ上げないので分かりませんが……」
美空は結婚の挨拶をした日を思い出していた。
優斗の父は確かに優斗に対して冷たい態度をとっていた。
けれど――。
『美空さん。未熟な奴ですが、どうかよろしく頼みます。『あかつき』を継ぐのはこいつですから』
『こちらも筋は通す。後は自分でけじめをつけろ』
そう言ったのだ。
(お父様は私と優斗さんの結婚を認めてくれた。それに、優斗さんに病院の跡を継がせるつもりでいる。優斗さんのやり方を尊重するはず)
言い方は冷淡だったが、優斗の手腕を認めているのだ。仁美が言うような最悪の事態が起こるとは思えない。
「ですから、私が離婚する必要も、仁美さんが優斗さんと結婚する必要もないんです」
美空が静かに伝えると、仁美の眉がピクリと動いた。
先程までの表情は抜け落ち、無表情で美空を見つめている。
「……ムカつく」
「えっ?」
「なんでっ……なんで、あんたは認められてるの!? 私じゃダメだったのに! 私には結婚しかないのにっ!!」
金切り声が部屋に響く。
仁美は目に涙を浮かべていた。