似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
その後、二人は少し冷めてしまった料理を食べながら、他愛もない話をした。
好きな物、自分の癖、今まで気になっていたけれど聞けていなかったこと――。
「そういえば、最近はよく眠れていますか? 病院のことで心労が絶えないでしょうから難しいかもしれませんが……」
「あぁ、最近は眠れてるよ。そもそも、不眠の原因は病院のことじゃないから」
「え? それじゃあ……」
「昔さ、研修医の頃なんだけど」
優斗が話し出したのは、彼が心の奥に秘めていた話だった。
けれど話している間、彼の表情はとても穏やかだった。
「……それで、寝ようとすると研修医時代のことが思い浮かんで、眠れなくなっていたんだ」
「そうだったんですね。軽々しく聞いてすみません」
「何言ってるの。誰にも言ったことがなかったから聞いてもらえてスッキリした」
明るく笑う彼の目には、もうほとんど隈はない。
きっと最近は本当に眠れているのだろう。美空は彼の笑顔を見ていると胸が温かくなった。
「美空はどうなの? 前、悪夢で寝つきが悪いって言っていただろう? 最近は大丈夫?」
「あれは……あれっきりですよ。優斗さんと一緒にストレッチしたら平気になりました」
「本当か?」
優斗が美空の顔を覗き込んだ。あまりに心配そうな顔だったから、美空は笑みが漏れた。
「本当です。あれは洋介の言葉で昔を思い出して、勝手に傷ついただけなんです」
「昔?」
別に彼の秘密を聞いたからではない。ただ聞いてほしい。そんな気持ちで美空は学生時代の話をした。
理学療法士を目指していたこと。資格は取れたが、実習でトラウマになってしまったこと。洋介に「お荷物」だと言われ、それを思い出したこと――。
「ね? 別に大したことじゃないんです。多分あの時は色々なことが重なって、夢に見ちゃっただけなんです。でも、もう大丈夫です」
美空がそう言い切ると、優斗は「そうか」とホッとしたように表情を緩めた。
「前から思っていたけど、俺たち結構似ている部分があるな」
「確かにそうかもしれません。そもそも最初の出会いも、同じ場所で同じ時間に同じ言葉を発したからですもんね」
「はははっ、そうだったな」
『結婚なんてしないっ……!』
『結婚はしないと言っただろう?』
それが出会いだった。
思い出して、声をあげて笑い合う。
その後は、久しぶりに二人でストレッチを行った。いつもは穏やかな気持ちでストレッチに臨むのだが、今日だけは目が合う度にくすりと笑い合いながら身体を解していった。
(こんな風に笑い合って過ごせる日が来るなんて……本当に良かった)
けれど問題はまだまだ山積みだ。洋介のことも仕事のことも先が見えないし、理由もわからぬまま仁美とも会うことになっている。
(仁美さんはどうして優斗さんだけじゃなく、私も含めた三人で会いたいんだろう?)
彼女とは病院で会ったきりだ。あの時の仁美はかなり切羽詰まった様子だった。
それに病院が大切だ、優斗との結婚が必要だと訴えていた彼女が、なぜあっさりと浮気をしたのかが、少し引っ掛かっている。
(なんにせよ、ちゃんとお話出来ると良いなあ)
美空はそんなことを考えながら眠りについた。
好きな物、自分の癖、今まで気になっていたけれど聞けていなかったこと――。
「そういえば、最近はよく眠れていますか? 病院のことで心労が絶えないでしょうから難しいかもしれませんが……」
「あぁ、最近は眠れてるよ。そもそも、不眠の原因は病院のことじゃないから」
「え? それじゃあ……」
「昔さ、研修医の頃なんだけど」
優斗が話し出したのは、彼が心の奥に秘めていた話だった。
けれど話している間、彼の表情はとても穏やかだった。
「……それで、寝ようとすると研修医時代のことが思い浮かんで、眠れなくなっていたんだ」
「そうだったんですね。軽々しく聞いてすみません」
「何言ってるの。誰にも言ったことがなかったから聞いてもらえてスッキリした」
明るく笑う彼の目には、もうほとんど隈はない。
きっと最近は本当に眠れているのだろう。美空は彼の笑顔を見ていると胸が温かくなった。
「美空はどうなの? 前、悪夢で寝つきが悪いって言っていただろう? 最近は大丈夫?」
「あれは……あれっきりですよ。優斗さんと一緒にストレッチしたら平気になりました」
「本当か?」
優斗が美空の顔を覗き込んだ。あまりに心配そうな顔だったから、美空は笑みが漏れた。
「本当です。あれは洋介の言葉で昔を思い出して、勝手に傷ついただけなんです」
「昔?」
別に彼の秘密を聞いたからではない。ただ聞いてほしい。そんな気持ちで美空は学生時代の話をした。
理学療法士を目指していたこと。資格は取れたが、実習でトラウマになってしまったこと。洋介に「お荷物」だと言われ、それを思い出したこと――。
「ね? 別に大したことじゃないんです。多分あの時は色々なことが重なって、夢に見ちゃっただけなんです。でも、もう大丈夫です」
美空がそう言い切ると、優斗は「そうか」とホッとしたように表情を緩めた。
「前から思っていたけど、俺たち結構似ている部分があるな」
「確かにそうかもしれません。そもそも最初の出会いも、同じ場所で同じ時間に同じ言葉を発したからですもんね」
「はははっ、そうだったな」
『結婚なんてしないっ……!』
『結婚はしないと言っただろう?』
それが出会いだった。
思い出して、声をあげて笑い合う。
その後は、久しぶりに二人でストレッチを行った。いつもは穏やかな気持ちでストレッチに臨むのだが、今日だけは目が合う度にくすりと笑い合いながら身体を解していった。
(こんな風に笑い合って過ごせる日が来るなんて……本当に良かった)
けれど問題はまだまだ山積みだ。洋介のことも仕事のことも先が見えないし、理由もわからぬまま仁美とも会うことになっている。
(仁美さんはどうして優斗さんだけじゃなく、私も含めた三人で会いたいんだろう?)
彼女とは病院で会ったきりだ。あの時の仁美はかなり切羽詰まった様子だった。
それに病院が大切だ、優斗との結婚が必要だと訴えていた彼女が、なぜあっさりと浮気をしたのかが、少し引っ掛かっている。
(なんにせよ、ちゃんとお話出来ると良いなあ)
美空はそんなことを考えながら眠りについた。