御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う

エピローグ

 十一月に入ったある週末、小夜莉は雅人と共に地元に戻ってきていた。
 タクシーの窓を開けると、ややひんやりとした海風が舞い込んでくる。潮の香りを感じながら、久しぶりに地元に戻ってきたのだと実感した。

『小夜莉のお母さんに、もう一度ちゃんと挨拶がしたい』

 ある日の夕食の時、突然雅人がそう言いだした。小夜莉は少し驚いたが、自分の母のことも雅人は大切に思ってくれているのだとわかりとても嬉しく思った。すぐ母に連絡を入れると、飛び上がらんばかりの喜びようで、あれよあれよという間に日程まで決まってしまったのだ。

 実はその少し前、小夜莉と雅人は結婚を正式に社内に発表した。ふたりの気持ちが繋がり、雅人の両親からも認められたのが理由だが、あのNKRの騒動の際、小夜莉のメガネが壊れてしまったのも理由のひとつだ。
 あの時、美幸に投げ捨てられた小夜莉のメガネは、所長や警備員たちがもみ合う間にぐちゃぐちゃに壊されてしまった。でもそれを契機に、小夜莉はメガネを外して出社することにしたのだ。心に蓋をして過ごすのではなく、顔を上げて雅人の隣に立ちたいと思ったのだ。そして小夜莉の素顔を見た職員たちが、大騒ぎしたのは言うまでもない。小夜莉の左手の薬指に輝く結婚指輪を一目見ようと、職員が研究室に殺到した日もあったほどだ。

「そういえば、所長の話は断ったんだって?」

 すると窓の外を見ていた雅人が急にこちらに顔を向ける。小夜莉はこくんとうなずいた。
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