御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う

偽りの婚約者

 暗い夜道を歩きながら、小夜莉はさっき雅人に掴まれた腕にそっと手を当てる。

「社長、きっとびっくりしたよね」

 小夜莉が真っ青な顔をして叫び声を上げた時、雅人はひどく驚いたような顔をしていた。
 それでも何もなかったかのように振る舞ってくれたのは、雅人が小夜莉の抱える何かを感じ取ったからかも知れない。
 赤信号で足を止めた小夜莉はふうと大きく息をつく。

 小夜莉には男性恐怖症がある。
 幼い頃からその美しい容姿で目立っていた小夜莉は、知り合いのみならず見知らぬ男性から付きまとわれることも度々経験した。
 そして高校生の時、怖い思いをしたことをきっかけに、男性に恐怖心を抱くようになったのだ。
 それ以来、顔を半分覆うような大きな黒縁のメガネをかけ、できるだけ人と距離を取って過ごしてきた。仕事も研究職を選び、必要最小限のコミュニケーションで乗り切ったのだ。
 そんな小夜莉だったが、ずっと心に引っかかっていたことがある。それは女手一つで育ててくれた母のことだ。
 母は幼い頃から『小夜莉には幸せな結婚をして欲しい』と常々言っていたが、小夜莉が男性恐怖症になってからは何も言わなくなった。
 男性を怖がる小夜莉を見て、きっと本心を言えなくなったのだと思う。

 母のために「男性恐怖症を克服して結婚しよう」そう誓った小夜莉は一念発起、結婚相談所に入会。何度かお見合いを繰り返した後、最近お付き合いする男性ができたのだ。
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