御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
 相談員イチオシの彼は商社勤務のエリートで、小夜莉の男性恐怖症にも理解が深く、無理なことは決してしてこない。
 だからこそ、適度な距離を保ちつつ、ゆっくりと付き合いを続けることができている。
 そして今日は田舎から出てくる母に、彼を婚約者として紹介する食事会をすることになっているのだ。

「お母さん、もう着いてるかな?」

 気を取り直すように腕時計を確認した小夜莉は、青信号に変わった横断歩道を足早に渡る。
 今日のことを話した時、母は飛び上がらんばかりに喜んでくれた。
 電話越しに泣きながら「おめでとう」を繰り返す母に、やはり男性恐怖症のことで相当心配をかけていたのだとわかった。

 街灯が明るい大通りに出た小夜莉は、駅前の名門高級ホテルへと足を向ける。
 今日の食事会のために、このホテルの有名シェフがいるレストランにディナーの予約を入れた。
 会社で時間をロスしてしまったが、待ち合わせの時間には間に合いそうだ。
 ホテルのロビーに駆け入った小夜莉は、フロントの脇の方で背を向ける恋人の田辺直志の姿を見つける。

「直志さん!」

 呼びかけて駆け寄ろうとした小夜莉は、ふと直志が誰かと話をしているのに気がつき足を止めた。

(誰か知り合いでもいるの?)

 回り込むようにして覗き込んだ小夜莉は、背の高い直志の陰に隠れていた若い女性の姿に戸惑ったように首を傾げる。
 やけに直志に馴れ馴れしい素振りを見せる女性は、甘えるような顔をした後、直志の腕をキュッと自分の胸元で抱きしめた。
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