御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う

もう一人の婚約者

 先程と同じ広いエレベーターに乗り込んだ小夜莉は、そっと雅人の横顔を見上げる。
 直志の隣を歩くときはいつもどこか緊張していた。いつ直志が強引に肩を抱き寄せたり、キスを迫って来るかわからず、洋服がわずかに触れるだけでもビクビクとしていたのだ。

 でも不思議と今は心が落ち着いている。ドキドキと早足で叩く鼓動の音は、恐怖心ではなく期待感やワクワクに近いのだろうか?
 小夜莉は自分に戸惑いながら、雅人の腕にのせた指先にキュッと力を込める。
 すると雅人がふと小夜莉の顔を振り返り、ドキッとして慌てて目線を逸らした。

「しゃ、社長も食事会のご予定があったのに、母の勘違いに付き合わせてしまって申し訳ありません」

 取り繕うように口を開いた小夜莉に、雅人はくすりと笑う。

「いや、気にすることはない。俺は楽しかったよ。君のお母さんから聞いた君の地元の話とか、子供の頃の話とか。それと……また呼び方が社長に戻ってる。小夜莉」
「は、はい……雅人さん」

 小夜莉がそう小さく口を開いた時、エレベーターが再び最上階に着き、重みのある扉がゆっくりと開く。
 先程と同じ夜景が目の前に広がるかと思いきや、扉の前で仁王立ちしていたのは、雅人の秘書の司だった。

「雅人どこに行ってたんだ!」

 扉が開ききる前に司は雅人に詰め寄ると怖い顔を覗かせる。
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