御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
「あぁ、ちょっと婚約者を迎えに」
「婚約者⁉」

 そう叫び声を上げた司は、雅人の隣に立つ小夜莉を見てギョッとした顔をした。

「婚約者って、この子確かさっきの、能面――」
「神崎小夜莉、俺の婚約者だ」

 雅人は司の声を遮るようにそう言うと、表情を変えずに歩きだす。
 小夜莉は雅人に手を引かれるまま、さっきの席とは反対の方向にある、レストランの奥へと進んだ。
 しばらく行くと明らかに一般客の席とは異なる、VIP専用の個室がいくつか現れ、そのうちの一番奥の個室へと案内された。
 コンコンとノックして扉が開かれる。

「おぉ、やっと来たか。雅人」

 太い男性の声が聞こえ、雅人と共に小夜莉が室内に入った瞬間、その場の空気が凍り付くようにシーンと静まり返った。
 明らかに皆の視線は小夜莉に向けられている。
 そっと顔を上げた小夜莉は、自分を凝視する室内の人々の視線に思わず背筋がゾッとした。
 円卓を囲むのは、雅人の父親と思われる男性と、向かいにもう一人中年の男性がいる。
 そしてその脇には、とても綺麗な若い女性が座っていた。

「どういうことだ。雅人」

 しばらくして雅人の父親がようやく口を開く。
 雅人は臆することなく、静かに口を開いた。

「婚約者を連れて来いと言ったのはお父さんではないですか? それが化学の社長に就任する条件だとも」
「ふざけるな! 私はそんな条件など一言も……」
「おかしいですね。確かにおっしゃったはずです。三日後に予定されている食事会に婚約者を連れてくれば、私の希望通り化学の社長に就任させると。司も聞いていたよな?」

 雅人がチラリと後ろを振り返ると、司は冷や汗をかきながら目線を逸らす。
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