エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!

対峙

 滉太郎さんのお父さん、黒崎さんは赤坂の料亭で待っているという。金子さんの車でそこまで向かう。

 黒崎氏に会いに行くと滉太郎さんには伝えておきたかったが、金子さんにそれを伝えると「運転している最中に隣で携帯電話を操作されるのは我慢ならないんです」と怖いくらいの笑顔で言われて叶わなかった。そのせいで職場も無断で抜け出す羽目になってしまった。

 料亭はビルとビルの間にひっそりと佇んでいた。左右に竹が生えている石畳を進む。ここが東京のど真ん中だと忘れそうになるくらい静かだった。

 金子さんが木製の引き戸を開けると、着物の女将が待っていて奥の個室に案内された。

 座敷の奥には黒崎さんがどっしりと座っていて、驚くことにその隣にはさくらさんが正座していて、私は目を瞠った。

 さくらさんはピンと張った弦のようにまっすぐ背筋を伸ばして、私を見つめている。振袖の赤が目に焼き付くように飛び込んでくる。

「急に呼び出して悪かったね、野々村さん。どうぞそちらへ」

 黒崎さんが自身の向かいの空いている座布団を指し示す。役目を終えたのか、金子さんが去った気配を感じながら、言われるままおずおず座ると、黒崎さんが口元に笑みを浮かべた。テレビでも見たことがある穏やかな表情。でも、えも言われぬ迫力があって、背中に緊張が走る。

「あの、本日は……」

「まあ、そう硬くならずに。まずは食事を楽しもうか。私はここの海老しんじょうが気に入っていて、いつも出してもらうんだ。さくらくんも前に滉太郎と来た時に食べただろう?」

「は、はい。繊細な味わいですが、海老がしっかりと主張していて、私も大好きです」

 さくらさん、前に滉太郎さんとここへ来たんだ。
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