エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
 不審者がいなくなったかわからない以上、なるべく外には出ないようにしていたいけれど、昼食だけはそうもいかなかった。区役所で職員用の仕出し弁当は販売されるが、人気すぎてお昼休み前にはなくなってしまう。今日も間に合わなかったので、外へ買いに行くしかなくなった。

 財布とスマホを入れたミニトートを持って、階段を下りる。

 昨日はあまり長い時間外を出歩きたくなくて、庁舎近くのコンビニでおにぎりを買った。今日は他のものを食べたいけど、やっぱり不安が拭えない。今日もコンビニかなぁと思いつつ、正面玄関へ向かう。昼休みは職員も正面玄関の利用が許されている。

「こんにちは、野々村仁奈さん。十二日ぶりですね」

 突然話しかけられて、悲鳴をあげそうになった。おそるおそる振り向くと、滉太郎さんのお父さまの秘書、金子さんが自動ドアのすぐ横に立っていた。

「こ、こんにちは」

「黒崎がお呼びです。お手数ですがついてきていただけますか?」

 なにかご用でしょうかと問う前に、金子さんが告げた。一応質問のていはとっているけれど、私の都合を気にしている様子はまったくない。

「ですがこの後も仕事がありますので」

「先ほど黒崎からこちらの区長に連絡をいたしました。野々村さんは本日の午後は仕事に従事しなくて構わないと、お言葉を頂戴しております」

「そんな勝手に……」

「野々村さんも、黒崎にお話があるのでは? 私の忠告を無視して、まだ滉太郎さんの家に居座っているようですし」

 眼鏡の奥の金子さんの瞳が鋭く私を見据えた。

「それは、滉太郎さんとも話し合った上で一緒に住んでいて」

「ならそれを黒崎に説明する義務があなたにはありますよね。あなたの勝手極まりない行動を、黒崎は納得しておりません」

 一方的に糾弾してくる金子さんに言葉が詰まる。

 入籍するのは、滉太郎さんのお父さんに認めてもらってからと考えていた。でも認めてもらうには、私もお父さんに結婚させてくださいと頭を下げなきゃいけないはず。金子さんの言う通りだ。
< 100 / 123 >

この作品をシェア

pagetop