エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
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偽装妻の役目


 滉太郎さんのおかげでお父さんの転院が決まり、早速新しい治療が開始された。

 治療を始めて一ヶ月。腫瘍の範囲が少し小さくなっていると告げられた時は、思わず涙が流れた。このままさらに小さくなれば、腫瘍を除去する外科手術を行えるだろうと先生は言っていた。

 治療には副作用があり、お見舞いに行くと苦しそうな顔をしていることも多い。

 でもお父さんも治療に前向きだ。

「仁奈の結婚式に間に合わせなきゃいけないからな」

 嘘をついているのは心苦しいけれど、お父さんの治療の原動力になっているならこのまま演じ続けなきゃいけない。

 偽装結婚をしてくれて、さらにはお父さんの治療費を支払ってくれている滉太郎さんにはいくら感謝してもしきれない。滉太郎さんのために、私も偽装妻として精一杯役に立たないと。

 今日はイギリス大使館でレセプションパーティーが開かれる。

 気合を入れて準備……と言いたいところだったけれど、滉太郎さんが気をつかってくれて、大使館近くのホテルの一室で準備ができるよう手配してくれた。私はただ、担当の美容師さんに言われるがまま座っていただけ。

 本当なら私がこういう手配をするべきだ。次はちゃんとやろう。

 意気込んでいるとドアが開いて、通常業務を終えた滉太郎さんが部屋に入ってきた。

「お、おかえりなさい!」

 滉太郎さんの顔を見た瞬間、鼓動が高鳴って声が裏返った。

「ただいま、仁奈。その格好、よく似合ってる。綺麗だよ」

「あ、ありがとう、ございます……」

 突然の褒め言葉。しかも笑顔つき。攻撃力が高すぎて、まともに返事ができなかった。頬が熱い。

 最近の私はいつもそう。滉太郎さんが近くにいると落ち着いていられない。私、どうしちゃったんだろう。

 滉太郎さんもすぐに着替えて、一緒に大使館へ向かった。ドレスアップして滉太郎さんの隣を歩くのはイギリス旅行以来だ。

 黒のタキシードをビシッと着こなす滉太郎さんの隣に立つのはやっぱり緊張する。ドレスは滉太郎さんが用意してくれたとはいえ、着ているのは平々凡々な私。滉太郎さんに恥をかかさないよう、少しでも釣り合って見えるように背筋を伸ばした。
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