エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
 俺がそれなりに金を持っていることは、彼女もよく知っているはずだ。なのに俺を頼ろうとしないとは理解しがたい。お互い都合の良い存在のはずなんだから、俺を最大限利用すればいいのに。

 本当に仁奈はお人よしだ。いじらしいほど。

「迷惑じゃない。俺たちは仮だけど夫婦だ。助け合うのは当然のことだろ」

 仁奈が受け入れやすいように、綺麗ごとっぽく言ってやる。仁奈はまだ、迷っているようだった。

「でも私はまだ滉太郎さんの妻役としての役に立てていないのに、私ばっかり」

「毎日飯を作ってくれてるだけでかなり助かってる。それに来月はレセプションがあるから、仁奈には同行を頼みたい。ただお父さんの具合もあるだろうし、無理はしなくていい」

「いえ、レセプションには絶対参加します」

 仁奈の気負いが伝わってくる。本当に、無理する必要はないのだが。

「うん、わかった。助かる。だから君のお父さんの治療費も俺にとっては必要経費だ」

「…………ほ、本当に、いいんですか?」

 濡れた仁奈の瞳が俺を見上げる。

 頷くと、彼女の瞳から気の毒になるくらい大量の涙が溢れ出した。

「あ、ありがとうございます……本当に、ありがとうございます……」

「気にしなくていいよ」

「で、でも、私……もう、どうにもならないんじゃないかと思って……」

 震える仁奈の体を強く抱きしめ直した。

 俺の腕の中にすっぽり収まってしまうくらい華奢な仁奈の体。この体に、これまでたくさんのものを背負ってきたんだろう。お父さんと弟の幸せのために。

「大丈夫。もう大丈夫だ、仁奈」

 彼女が背負っていた荷物を下ろすように、震える肩をそっと撫でた。

 これからは俺がこの荷物を持つ。

 この小さな背中が傷つかないように守ってあげたい、そう思った。
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