終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない

第28話 幸せのとなりで

綾人のお父さんに指定された場所は、まさかのサモエドカフェだった。

(もっと格式ばった場所を想像していたのに……) 

「ほら見てみて~、モフモフがたまんないよね~」
「はぁ……」  
「あ、ネコ派?」
「いえ、どちらかというとイヌ派です」

初めて見るサモエドを撫でていると、ゆるりと心がほどけていく。

「社長をしているとね、時々こうやって癒しがほしくなるんだよ」 

そう言って笑う顔は、パーティーで見たときよりも柔軟で肩書きなんてない、普通の端正な中年男性だ。

(笑い方が綾人とそっくり……やっぱり親子だわ)

今日は日曜日だが、社長曰く、綾人には直々に仕事を頼んでいるらしい。
朝出るときも、「クソ親父」と、凄くぼやいていた。   

顎下を撫でながら、社長が気さくに話しかける。

「藤原さんは、綾人の生い立ちをどれくらい知っているかな?」
「正直なところ、詳しくは知りません」
「知りたいかい?」
「はい、ただ、綾人さんから話してくれるのを待ちます」

店員が、あたしたちの飲み物と犬用のおやつを運んでくる。
瞬間、飛び付いたサモエドにバランスを崩し、飲み物が床に散らばった。

「申し訳ございませんっ……お洋服がっ」
「ケガはなかったですか?……あたしは大丈夫ですよ」
「私は大丈夫ですっ……本当にすみません。クリーニング代をお支払しますっ」
「いえいえ、家で洗える服です。……ただ拭くものをいただけたら、助かります」

店員が慌ててタオルと掃除道具を取りに行く。

「大丈夫かな?」
「はい、少し裾が濡れただけです。研修中と書いてあったので、まだ不慣れだったのかも知れませんね」

あたしはカバンからタオルを取り出して、ポンポンと当てていく。

「君はそうやって、綾人の心をとかしたんだね」
「え?」
「少し、昔話を聞いてくれるかい?」
「はい……」
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