終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
あたしは、お湯の温もりにゆられながら、数時間前のことを思い出していた。

丁度、いち様のライブDVDも最高潮の盛り上がりのシーンで、社用のスマホが震えた。
知らない番号からの着信。
一度は無視を決め込んだが、再度、鳴るので出てみる。

『夜分に失礼します。私は、藤垣綾人の父、渡瀬と申します。藤原志穂さんの携帯電話で間違いないかな』

どうやら、営業で渡した名刺を見て、社用のスマホにかけてきたのだ。
というか、今、綾人と一緒に、懇親会中ではないか。

『今少しだけ抜けて、電話をかけているんですよ。今度良ければ、私とお茶してくれないかな』
『え・・・・・・』
『もちろん、綾人には内緒でね。知りたいだろ、綾人の過去のこととかを』

もちろん断ることもできた。
あたしが知らない綾人のこと、本人以外から勝手に聞きたくないから。
でも、社長、いや綾人のお父さんとは、ちゃんと話したい。
 
(今度は、あたしが逃げずに向き合う番だ)
 
綾人の隣は、自分で選んだ場所だから。
あたしはふたつ返事で了承したのだ。

「綾人が頑張ってくれたんだもの……」
「何が?」
「綾人、ありがとう」

あたしは、静かな決意を胸に秘め、綾人にそっとキスをした。       
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