終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
店員からタオルと新しい飲み物を受け取ったあたしは、アイスコーヒーを社長に渡した。
一口啜ったあと、ストローを回しながら彼が静かに語り始める。
   
「あるところに、老舗ホテルの社長になる男がいました」
 
社長の話は、こうだ。
その男は、寂しさを埋める方法を間違えた。
だから、今でも後悔してる。
それでも、藤垣として食らいついている息子が嬉しかったのだ、と。
親のエゴだが、息子には同じ思いをしてほしくなかった。 

「綾人の母親は、本当に仕事に誇りを持った女性だった。そんな彼女に認められたくて、がむしゃらに仕事に打ち込んだ」
「ホテルはさらに成長したけれど、気づけば妻も息子も、一番大切なものを見ていなかった」

社長は、一口飲んだアイスコーヒーのカップを見つめる。
懐かしさの中に、ほんの少しの懺悔をするような目で。  

「結局、私はまた家庭を持つことができたわけだが……」
「あの子の寂しさを埋めてくれる人が現れたら……と。仕事だけでは、人は幸せになれないからね」  
「だから、婚約者を探したんですか?」
「そう。綾人には同じ道を歩いてほしくないからね。まぁ、あいつも私に似て、溺愛するタイプだよ」
「綾人さんは、心のどこかでは、お父さまのことを理解しているのかもしれません。社長のお話を聞いていると、お二人とも似ているのがよく分かりました」
「似ているから、余計にぶつかるんだよ」 

軽くウィンクする社長。
綾人の面影に重なり、少しどぎまぎしてしまった。 
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