終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない

第5話 好きを笑わない人

「…………ねぇ、本当に付いてくるの?」
「は?もう車出してるだろ」

朝ごはんを食べたあと、家の荷物を取りに行きたいと言った。
すると、綾人がわざわざ荷物持ちを買ってでた。
有無を言わさない強引さで、車に乗せられている。
  
「それはそうだけど……わざわざ来なくてもいいんじゃないかなぁ……」
「今さら汚部屋でも驚かねぇけど?」
「違うわっ!掃除はできるからっ」
「じゃ、なに?あー……推し?」
「そうっ!!それっ!!」
(祭壇とか見られたくないのにっ) 
「というか、女子の部屋にためらいなくついてくる男もどうかと思うのよ」

あたしは腕を組みながら、じろっと綾人を見る。
  
「今さら……だろ」
「なによ、その含みのある言い方っ」
「別に。荷物運ぶなら男手要るだろ」
「綾人って……意外と優しいわよね。彼女とか切れなさそう」
「婚約者はお前だろ」
「フリね、忘れないでよ」 

綾人は何も言わず、前だけを見たまま車を走らせる。
その沈黙が妙に落ち着かなくて、あたしは窓の外へ視線を逃がした。 

「……ほんとに中入るの?」
「まだ言ってんのか」 
「だから、その推しのとか……」
「いいから、早くしろ」
 
そう言いながら綾人は鍵を奪って、シリンダーを回した。
ほんの二、三日留守にしただけなのに、すでに懐かしさが込み上げてきた。

「ただいまっ!いち様っ」

つい、いつものクセで、シューズボックス上のアクスタに挨拶した。
が、綾人はそのまま奥へ進んでいく。

(あれ?……冷やかさない)

あたしは少しだけ、不思議に思いつつ後を追う。
綾人はリビングのドアを開けて、中を見渡す。
 
「へぇー……志穂らしいな」
「なにが?」

それほど広くないリビングダイニングには、一見普通のOLが好みそうな雑貨がある。
そして、時々推しのアクリルスタンド。

「オンとオフ切り替えてんだな」
「……うん。要るものまとめるから、そこ座ってて」

違う。
確かに、ここは"よそ行き"のあたしの部屋。
元カレに言われて、それらしく繕っただけ。

(って……なんで綾人に言い訳しようとしてるのよ)
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