終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
第8話 志穂の啖呵
「藤原さん、一度お会いしたかったんです」
「えっ……なんで」
「綾人さんが、自ら女性を連れて来られるなんて初めてですから」
(……褒められてるのよね?)
そう思いたいのに、視線は変わらず冷たいまま。
九条麗華という名のとおり、微笑みにも花がある。
彼女の着ている深いワインレッドのドレス。
華美じゃないのに、誰より目を引く。
まるで彼女自身みたいに無駄がなかった。
けれど、その笑みはどこか温度がない。
すると九条さんの視線が、ふと止まる。
ほんの一瞬。
でも確実に、足元を見た。
「……そういうことでしたか」
九条さんは、それ以上何も言わなかった。
なのに、まるで答え合わせが終わったみたいな顔をしている。
(……なに、この感じ)
誰も何も言っていないのに、 “何かが確定した”ような沈黙。
そのとき——
「綾人」
低く、よく通る声が会場の奥から響いた。
ざわり、と空気が揺れる。
振り向いた先にいたのは、 年齢を感じさせないほど整ったスーツ姿の男性。
無駄のない歩き方。 視線ひとつで周囲を制するような存在感。
考えるより先に、理解する。
——この人が、綾人のお父さん。
「……親父」
綾人の声が、ほんのわずかに低くなる。
さっきまでとは違う。 どこか、緊張を含んだ声音。
その男性は、ゆっくりとこちらへ歩み寄ると、 まずあたしを見た。
一瞬だけなのに。
(全部、見られた)
値踏みでも、否定でもない。
ただ、“判断された”感覚。
「……なるほど」
「連れて来いって言っただろ」
間髪入れずに返す綾人。
迷いも、躊躇いもない。
その言葉に、 周囲の空気がぴん、と張り詰める。
綾人のお父さんは、ほんのわずかに目を細めた。
「初めまして。藤原志穂と申します」
逃げずに頭を下げる。
数秒のはずなのに、 やけに長く感じる時間。
やがて、父親が口を開いた。
「……綾人、あとで上がってもらうからな」
「わかってるよ」
「では、藤原さんもまた後で」
(……え?)
その言葉に、思わず顔を上げる。
「今の挨拶で、終わったの?」
綾人は、ふっと笑った。
「そんなわけねぇだろ。ここからが本番だ」
「えっ……なんで」
「綾人さんが、自ら女性を連れて来られるなんて初めてですから」
(……褒められてるのよね?)
そう思いたいのに、視線は変わらず冷たいまま。
九条麗華という名のとおり、微笑みにも花がある。
彼女の着ている深いワインレッドのドレス。
華美じゃないのに、誰より目を引く。
まるで彼女自身みたいに無駄がなかった。
けれど、その笑みはどこか温度がない。
すると九条さんの視線が、ふと止まる。
ほんの一瞬。
でも確実に、足元を見た。
「……そういうことでしたか」
九条さんは、それ以上何も言わなかった。
なのに、まるで答え合わせが終わったみたいな顔をしている。
(……なに、この感じ)
誰も何も言っていないのに、 “何かが確定した”ような沈黙。
そのとき——
「綾人」
低く、よく通る声が会場の奥から響いた。
ざわり、と空気が揺れる。
振り向いた先にいたのは、 年齢を感じさせないほど整ったスーツ姿の男性。
無駄のない歩き方。 視線ひとつで周囲を制するような存在感。
考えるより先に、理解する。
——この人が、綾人のお父さん。
「……親父」
綾人の声が、ほんのわずかに低くなる。
さっきまでとは違う。 どこか、緊張を含んだ声音。
その男性は、ゆっくりとこちらへ歩み寄ると、 まずあたしを見た。
一瞬だけなのに。
(全部、見られた)
値踏みでも、否定でもない。
ただ、“判断された”感覚。
「……なるほど」
「連れて来いって言っただろ」
間髪入れずに返す綾人。
迷いも、躊躇いもない。
その言葉に、 周囲の空気がぴん、と張り詰める。
綾人のお父さんは、ほんのわずかに目を細めた。
「初めまして。藤原志穂と申します」
逃げずに頭を下げる。
数秒のはずなのに、 やけに長く感じる時間。
やがて、父親が口を開いた。
「……綾人、あとで上がってもらうからな」
「わかってるよ」
「では、藤原さんもまた後で」
(……え?)
その言葉に、思わず顔を上げる。
「今の挨拶で、終わったの?」
綾人は、ふっと笑った。
「そんなわけねぇだろ。ここからが本番だ」