終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない

第17話 原因はミルクティーでした

「……ばーか、ばーか……あやとの……ばぁか……」

明かりが付いたリビングに入った瞬間、聞こえてきた声に足を止めた。

ソファのクッションに顔を埋めた志穂が、完全に寝落ちしていた。

「何してんだよ……」

苦笑しながら近づく。
どうやら風呂にも入らず、そのまま寝たらしい。
手の中のスマホには、俺とのメッセージ画面が表示されたままだった。

「……悪かったな」

返したくても返せなかった。

仕事終わりに淹れていたミルクティーへ携帯を落とした瞬間は、自分でも意味がわからなかった。 
九条には呆れられるし、大垣には笑われるし。
挙げ句の果てに、志穂には連絡できない。
最悪だ。
 
そもそも、俺はコーヒーを飲むつもりだったのに。 

「ったく……」

そっとスマホを取り上げる。
起こさないよう腕を差し込み、抱き上げた。
普段はうるさいのに、寝ていると妙に大人しい。

「……無防備だな」

長い睫毛に、ふわりと揺れる髪。
いつもよく動く唇は、今は静かに閉じている。
 
抱き上げた腕の中で、志穂が小さく身じろぐ。

「……あやと……」

思わず足が止まった。

「……ん?」
「さみしかった……」

小さな寝言。
その一言に、思考が止まる。
数秒遅れて理解し、思わず笑みがこぼれた。

「……素直だな」

起きているときは絶対言わないくせに、何だそれ。 
寝室のベッドへ下ろし、ふと、志穂の細い手首に視線が止まる。
そこには以前贈ったアンクレットが、ブレスレットとして収まっていた。
 
「……」
 
無意識なのか、それとも気に入っているのか。
どちらにせよ、思わず口元が緩む。
 
「覚えてねぇんだろうな」

明日になれば、また強がるんだろう。
だから今だけは知らないふりをしてやる。

「おやすみ、志穂」

志穂の額を指先で軽く弾き、静かに部屋を出た。  
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