終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない

第18話 肩書きは伊達じゃない

コンコンと軽くノックする音が、寝室に響く。
 
「志穂」

無視を決め込んで、頭からふとんを被る。
なおもコンコンと叩く音。
 
「飯冷めるぞ」
(絶対に返事しないっ……怒ってるんだからっ)

ぐぅぅ。

(……………………) 
  
「明太パスタ、食わねぇなら俺食うぞ」
「食べるっ!!」

空腹に耐えかねて、あたしはのそのそとダイニングに向かう。
テーブルの上にはすでに、パスタが置かれていた。
手を合わせて、冷めない内に食べ始める。
久しぶりの綾人の味に、舌が喜んでいるのが分かった。
ただ……。
    
「……」
「……」

気まずくて沈黙したまま、でも食べる。
綾人の視線を感じるも、あたしはパスタを見るしかできない。
 
「美味いか?」
「……美味しい」
「そうか」

満足そうに笑う顔に、絆されそうになるのを堪える。
少しだけトゲを含んだ声で言ってやる。
    
「……別に許してないから」
「ふーん」
「なによ」
「寂しかったんだろ」
「違うっ!」

もう何を言っても敵わない。
ツッコミ過ぎてカラカラな喉に、麦茶を流し込む。 
すると綾人がサラッと言う。

「そういや次の打ち合わせ、俺も出るから」
「え?」
「統括責任者だからな」
「聞いてないっ!」
「今言った」
「そういうことじゃない!」
「何だよ」
「九条さんから先に聞いた!」
「あぁ」
「あぁじゃない!」

(何でいつも九条さんなのよっ……)

喉から出そうになる彼女の名前を、寸前のところで押し留めた。  
 
「まぁ安心しろ」
「何が」
「企画、評判いい。推し活案も通りそうだしな」
「ほんと?」
「だから呼ばれてんだろ」
 
知っていても、綾人に言われるとちょっと嬉しくなる。
口角が上がったあたしを見て、頬杖つく綾人。 

「お前、自分の評価低すぎ」

優しく笑う綾人の顔は、まるで自信を持てと言われているみたいだった。  
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