終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない
「おかえり」
「~っ!!」
「飯もうちょい待て」
 
ワイシャツ姿の綾人が、何事もなかったように声をかける。 
それにつられて、あたしも思わず返事した。

「ただいま……ご飯なに?」
「明太パスタ。志穂はしそ多めだろ」
「うんっ」

ふと、思い出す。

「じゃ、ないっ!!」

あたしはキッチンでパスタを茹でている綾人に詰め寄る。 
      
「連絡くらいしなさいよ!」
「悪かった」
「全然悪そうじゃない!」
「悪いと思ってる」
「ならなんで!」

綾人は答える前に、茹で上がったパスタをザルにあげた。
湯気の向こうで、少しだけバツが悪そうな表情が揺れる。 
 
「携帯壊れた」
「それは聞いた!」

綾人の眉がピクリと上がる。
  
「麗華から?」

さっきの表情は幻だったのか。 
意地の悪い笑みで、問いかけてきた。
思わず、綾人のシャツの裾を引っ張る。
 
「だって!」
「ふたり暮らしなのに!」
「全然帰ってこないし!」
「連絡もないし!」
「何してるか分からないし!」
「これじゃ、一人暮らしと変わらないじゃないっ!!」

溜まりにたまった感情も言葉も、子どもみたいにぶつける。
綾人は口元に手をあてながら、ずっとニヤニヤしている。
   
「寂しかったのか」

一番しっくりくる、認めたくない感情。
綾人に言われると、全然素直になれない。
  
「は?……違うっ!」
「そういう意味じゃないっ!」
「ただっ……!」 
「ふーん」
「もう知らないっ!」

綾人の顔に耐えられない。 
小学生みたいな捨てセリフを吐いて、あたしは寝室に逃げ込んだ。
  
「……かわいい」

背後で聞こえた呟きに、耳まで熱くなる。
枕に顔を埋めながら思った。
 
(もう……ほんとにイヤだ……)
 
あたしばっかり、振り回されていろいろダメな気がした。   
< 63 / 121 >

この作品をシェア

pagetop