終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない

第3話 王子じゃない俺を見ろ

もうとっくに、夜は深くなっていた。
さすがに眠たくてあくびが漏れる。
  
「早く風呂入れ」 
 
呆れたようなため息とともに、王子はクローゼットを開けた。
ハンガーの隙間から、無造作に取り出されたシャツとスウェット。
それを、迷いなくあたしに投げてくる。
 
「着替え、これな」 
「……ちょっと待って」 
 
受け取ったそれは、明らかに王子のものなのに、不思議と拒否感がない。
むしろ——
 
(はじめから、泊まること前提みたいじゃない……) 
 
落ち着かない感覚が、じわっと広がる。

「ありがと…………ん?」
「洗濯してるぞ?」
「違うわよ……なんでパンツまであるのよ」
 
明らかに、未開封とはいえ女物の下着に、顔をしかめる。 
綾人は一瞬だけ視線を逸らした。
 
「適当に買った」
「適当でサイズ合うわけないじゃない!」
「細かいこと気にすんな」
「気にするわよっ!」
 
耳まで熱くなって叫ぶと、綾人はくつくつと喉を鳴らす。
 
「洗面所は右な」 
「ちょっと待って、やっぱり、いったん帰ろ——」 
「いいから、早く行けって」
 
背中を押されるように、洗面所の方へ向かう。
逃げるタイミングなんて、いくらでもあったはずなのに。
浴室に射す都会の灯りが、非日常だと告げている。
何もかもが規格外で、自分の範疇を越えている。 

「…………イヤって言えばいいだけじゃない」

――王子が推しに似てるから?

ちがう、それだけじゃない。

泡立って香るボディソープも。
しっとりと髪を包んでくれてるトリートメントも。
全部、王子が毎日使っているもの。
彼の日常に、あたしが少しずつ混じっていく。
 
怖いはずなのに。
 
王子に押し切られることを、どこか期待している自分がいる。

(……どれだけ弱いのよあたしはっ) 
(でも、スキンケアとかも用意してくれてた……)

未開封の使いきりサイズのもの。
 
(……ここ、他の女も来てるの?……って、なにモヤッとしてるの)

邪推な考えをシャワーとともに流し、いそいで浴室から出ることにした。   
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