愛とか恋とかウザいので

7・この想いの行方

 蒼弥のお供を詰めるミツセのパーティー当日、萌依は、いつもより早めに帰宅して身支度をした。
 ミツセという名義で時計設計師として活躍する彼は、フリーの時計設計師で、世界三大複雑機構のひとつに数えられるトゥールビヨンという技術を独学で学び、精密な機械の動きに高い人気がある。
 今日のパーティーは、その彼が、国際的に有名なデザイナーの賞を受賞したことを祝うためだ。
 ハルモニアとの共同企画が始動したのは、彼が賞を受賞するよりも前のことなので、今回のことはハルモニアとしてもいい追い風になっている。
 だからこそ、ハルモニアの社員として恥ずかしくないよう身だしなみを整えて、パーティーに出席したい。
 そんなことを考えながら化粧直しをする萌依は、鏡に映る自分を姿を不思議な想いで眺めていた。
 先日ふたりで千葉に出掛けた日は、食器を選びつつ観光を楽しんで一日が終わってしまったため、後日改めてふたりでドレスを選びに出掛けた。
 今回蒼弥が選んでくれたドレスは、黒でタイトなデザインのもので、かなり大人びている。
 髪型やアクセサリー、メイクなども、それに合わせた大人びたものだ。
 普段から黒を着ることの多い萌依だけど、それは仕事の妨げにならないよう己の個性を消すためのものだ。だけど今日のドレスはその逆で、シックなデザインと色味だからこその存在を放っている。

「お洒落なんて、もう二度としないと思ってたのに」

 ハルモニアに就職して以降、萌依は機能性重視の服装を選ぶようになっていた。それに合わせて、メイクもこざっぱりとしたナチュラルメイクが基本だ。
 それでいいと思っていたし、今でも職場ではそのスタイルで通している。
 だけどそれとは別の感情として、お洒落をした自分の姿に心が弾む。
 失恋の痛みが癒えた今、萌依の中にお洒落を楽しみたいという感情が芽生えたということだろう。
 本当に、人の心は、その本人でも予測不能だ。
 蒼弥と選んだドレスに着替え、メイクを整えた萌依は、鏡の前でクルリと身を翻してみた。

「うん。素敵」

 自画自賛を少し恥ずかしく思いながら、萌依は今の自分の姿を褒めておく。
 蒼弥の言葉を借りるのであれば、自分の気持ちとは一生付き合っていいかなくてはいけないのだ。
 お洒落を楽しむ自分の思いを否定することに意味はない。
 それは蒼弥に対する恋心もそうだ。
 彼に対する想いを自覚してしまった以上、それを否定することにはなんの意味もない。
 ただ蒼弥を想うからこそ、彼に不快な思いをさせないために、このことを隠していくだけだ。

(片想いでいいから、このまま蒼弥さんと一緒にいたい)

 それが嘘のない萌依の想いだ。
 ちなみに蒼弥は会議の予定などがつまっており、ギリギリまで仕事をして、オフィスで着替えて、そのまま会場に向かうので、萌依とはパーティーが開かれるホテルのロビーで落ち合うことになっている。
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