愛とか恋とかウザいので
「萌依」

 タクシーを降りた萌依がロビーに入ると、光沢のある濃紺のカクテルスーツ姿の蒼弥が、それに気付いて合図をくれた。
 萌依が早足で彼の方へと近付くと、彼は軽く手を広げてそれを出むかえてくれる。

「私には、ちょっと大人っぽくないですか?」

 蒼弥の前に立った萌依は、軽く腰を捻り、背中が大きく開いたドレスの着こなしを確認する。
 先ほど鏡で確認したときは、自分でも素敵だとは思ったけど、蒼弥の隣に立つとどうしても気後れしてしまう。

「萌依の魅力を、ぞんぶんに引き立ててくれている」

 ストレートな蒼弥の言葉が恥ずかしい。

「ありがとうございます……っ!」

 視線を落としてお礼を告げる萌依の腰に、蒼弥が当然のように腕を回す。
 その距離感に萌依が驚き目を丸くすると、蒼弥が困り顔を見せた。

「今日は、俺のパートナーとしてこの場に来ているんじゃないのか?」

「私は、秘書として同行したつもりです」

 確かに今の萌依は、蒼弥の秘書であり、妻である。だけどふたりの結婚はまだ公にしていないので、こういった場所では、萌依としては彼の秘書として振る舞うつもりでいる。
 彼との密接な距離に戸惑い、萌依が声をこわばらせると、蒼弥が腰に回した腕を解いた。

「悪い」

 叱られた子供のようにシュンとする彼に、上手く言葉にできない胸の疼きを覚えた萌依は、そのまま歩き出そうとする蒼弥のスーツの裾を摘まんだ。

「あの……蒼弥さんとの距離感が嫌だという意味じゃないですよ」

 萌依がそう言うと、蒼弥がホッとした顔をする。

「そうか。それなら、会場に着くまでだけでもエスコートさせてくれ」

 そう言って、再度萌依の腰に腕を回す。

(蒼弥さんとしては、これはマナーのようなものなのかな?)

 華やかな場所に慣れている蒼弥としては、こういう場所では女性をエスコートするのが当然なのだろう。
 パーティー会場は、ホテルの上階のフロアなので、せめてそこまでだけでもエスコートをしたいらしい。
 それは蒼弥にとって自然なことで、彼からすれば、過剰反応する萌依の方がおかしいのだ。

「わかりました。ありがとうございます」

 萌依がお礼を言うと、蒼弥が再び萌依の腰に腕を回す。

「では行こう」

 萌依が自分の立場を再認識していると、蒼弥は腰に回した手で萌依の腰を軽く叩いて合図を送る。

「はい」

 薄いドレスの生地越しに感じる彼の手の温もりに戸惑いを覚えつつ、萌依は彼とエレベーターホールへと向かった。
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