愛とか恋とかウザいので
8・悪いが君を離さない
萌依と共にミツセのパーティーに出席した蒼弥は、金屏風の前で花束を受け取るミツセに拍手を贈りながら、隣に立つ彼女の様子を窺った。
(彼女には、俺の好意は迷惑なものなのだろう)
自分の恋心に気付いて以降、蒼弥なりに萌依にその想いを伝えようと努力してきた。そのためにまずは彼女との距離を改善したいと思うのだけれど、萌依はいつもどこかよそよそしいままだ。
同居人として、契約上の夫として、蒼弥を明確に拒絶することはないが、それでも蒼弥が一定のラインを超えようとすると困惑顔を見せる。
(さっきもそうだ……)
先ほど蒼弥はミツセに、萌依を自分のパートナーであることを説明したうえで、十和企興の館野親子のことを話した。
ミツセとは以前からの知り合いで、長年、気心の知れた付き合いをしてきた。今回の共同企画が実現したのも、蒼弥との関係があってのことだ。
そんな彼だから、ありのままの状況を伝えて『萌依を守るために、雑用程度の仕事を十和企興に回すことを許してほしい』と頼んだ。
これまでの蒼弥の恋愛観を知るミツセにはかなり揶揄われたが、引き換えに望んでいた返答はもらえたのでよしとしておく。
冷めた恋愛観の蒼弥にとって、これが初恋のようなものなので、どこか浮かれていたのだろう。
だから萌依のもとに戻ったときに、何の気なしに「俺が恋に落ちたことを、ミツセさんに揶揄われた」と打ち明けた。
そしてそのままの勢いで「もし、俺が本当に恋をしたと言ったらどうする?」と萌依に問いかけ見た。でもその直後、凍りついたよ彼女の表情を見て、一気に冷静さを取り戻したのだ。
今更ながらに自分の恋心は萌依にとって迷惑でしかないのだと思い知り、慌てて冗談ということにしたが、かなりぎこちないものだっただろう。
ちょうどそのとき、ミツセの紹介が始まったので、タイミングに救われた。
そして周囲が再び明るくなると、蒼弥は気持ちを切り替えて、ビジネスライクに十和企興に仕事を依頼することを萌依に伝えた。
その報告に、萌依はかなり驚いたようだけど、蒼弥はそのままの調子で「私的感情を含んだ、俺の独断と思ってもらって構わない。ただ、俺なりの考えがあってのことだ」と続けた。
そう断言することで、この件に萌依が関わる必要はないことを伝える。
たぶん蒼弥の想いは彼女に届くことなく、このまま片想いで終わるのだろう。だけど、それで構わない。
それでも萌依の隣にいて、彼女が悪意に晒されることのないよう守ることができれば、それで満足だ。本気でそう思えるほど、蒼弥は強く萌依のことを愛している。
そんなことを考えていると、「早瀬社長」と、蒼弥を呼ぶ声が聞こえた。
視線を向けると、愛想笑いを浮かべる館野親子の姿があった。
「早瀬社長、先日はお茶をご一緒できて楽しかったです」
父親の隣を歩く眞希子が、眼差しを萌依に向けて言う。
まるで、蒼弥と親しい関係にあるかのような、眞希子の口調が煩わしい。
(どうして彼らがここに?)
胸に湧いたその疑問は、館野常務の「早瀬社長もこのパーティーに出席されると思い、探していたんですよ」という言葉で解消された。
十和企興とミツセには、ビジネス上の付き合いがあるそうなので、今日のパーティーの招待状が届いていても不思議はない。
先日蒼弥が、ミツセと近く会う予定があると話したことで、このパーティーに参加していると察したのだろう。
蒼弥が冷ややか態度を示しても、眞希子は、気にする様子もなく、無理やり自分もこのパーティーに同行したのだと話した。
つくづく面倒くさい親子だ。
ついでにいえば、先ほどミツセに確認したところ、十和企興に仕事の依頼をしたのは事実だが、ハルモニアとの件を話した記憶はないとのことだった。おそらくミツセのもとを訪れた際に、ハルモニアからの郵便物かなにかを目にし、ハルモニアが百周年という節目という情報とを組合わせて、推測してカマをかけたのではないかとのことだった。
蒼弥も、そんなところだろうとは思っていたのだ。
本来なら、そんな品のない交渉術に出るような奴と仕事をするつもりはないが、全ては萌依を守るためだ。
だというのに眞希子は、蒼弥に意味深な眼差しを向け、萌依を言葉で牽制する。
彼女のその振る舞いはただただ不快で、一秒も早く萌依を連れてこの場を立ち去りたいのだけれど、ふたりに話しておきたいこともある。
それで萌依がお手洗いに行くと言って場を離れると、蒼弥はその背中を追いかけることなく館野親子と向き合った。
「先日話されていた仕事の件ですが、ミツセ氏の了承を得られたので一部の業務を十和企興さんに委託したいと思います」
蒼弥の言葉に、館野親子の表情に喜色が浮かぶ。
おそらく週明けには、自分おかげで一度はコンペで競り負けたハルモニアの仕事に割り込むことが出来たと大きな顔をするつもりなのだろう。
(好きにしておけばいい)
そしてその後で恥をかけばいいのだと、敵認定した相手には容赦ない蒼弥は心の中で舌を出す。
(彼女には、俺の好意は迷惑なものなのだろう)
自分の恋心に気付いて以降、蒼弥なりに萌依にその想いを伝えようと努力してきた。そのためにまずは彼女との距離を改善したいと思うのだけれど、萌依はいつもどこかよそよそしいままだ。
同居人として、契約上の夫として、蒼弥を明確に拒絶することはないが、それでも蒼弥が一定のラインを超えようとすると困惑顔を見せる。
(さっきもそうだ……)
先ほど蒼弥はミツセに、萌依を自分のパートナーであることを説明したうえで、十和企興の館野親子のことを話した。
ミツセとは以前からの知り合いで、長年、気心の知れた付き合いをしてきた。今回の共同企画が実現したのも、蒼弥との関係があってのことだ。
そんな彼だから、ありのままの状況を伝えて『萌依を守るために、雑用程度の仕事を十和企興に回すことを許してほしい』と頼んだ。
これまでの蒼弥の恋愛観を知るミツセにはかなり揶揄われたが、引き換えに望んでいた返答はもらえたのでよしとしておく。
冷めた恋愛観の蒼弥にとって、これが初恋のようなものなので、どこか浮かれていたのだろう。
だから萌依のもとに戻ったときに、何の気なしに「俺が恋に落ちたことを、ミツセさんに揶揄われた」と打ち明けた。
そしてそのままの勢いで「もし、俺が本当に恋をしたと言ったらどうする?」と萌依に問いかけ見た。でもその直後、凍りついたよ彼女の表情を見て、一気に冷静さを取り戻したのだ。
今更ながらに自分の恋心は萌依にとって迷惑でしかないのだと思い知り、慌てて冗談ということにしたが、かなりぎこちないものだっただろう。
ちょうどそのとき、ミツセの紹介が始まったので、タイミングに救われた。
そして周囲が再び明るくなると、蒼弥は気持ちを切り替えて、ビジネスライクに十和企興に仕事を依頼することを萌依に伝えた。
その報告に、萌依はかなり驚いたようだけど、蒼弥はそのままの調子で「私的感情を含んだ、俺の独断と思ってもらって構わない。ただ、俺なりの考えがあってのことだ」と続けた。
そう断言することで、この件に萌依が関わる必要はないことを伝える。
たぶん蒼弥の想いは彼女に届くことなく、このまま片想いで終わるのだろう。だけど、それで構わない。
それでも萌依の隣にいて、彼女が悪意に晒されることのないよう守ることができれば、それで満足だ。本気でそう思えるほど、蒼弥は強く萌依のことを愛している。
そんなことを考えていると、「早瀬社長」と、蒼弥を呼ぶ声が聞こえた。
視線を向けると、愛想笑いを浮かべる館野親子の姿があった。
「早瀬社長、先日はお茶をご一緒できて楽しかったです」
父親の隣を歩く眞希子が、眼差しを萌依に向けて言う。
まるで、蒼弥と親しい関係にあるかのような、眞希子の口調が煩わしい。
(どうして彼らがここに?)
胸に湧いたその疑問は、館野常務の「早瀬社長もこのパーティーに出席されると思い、探していたんですよ」という言葉で解消された。
十和企興とミツセには、ビジネス上の付き合いがあるそうなので、今日のパーティーの招待状が届いていても不思議はない。
先日蒼弥が、ミツセと近く会う予定があると話したことで、このパーティーに参加していると察したのだろう。
蒼弥が冷ややか態度を示しても、眞希子は、気にする様子もなく、無理やり自分もこのパーティーに同行したのだと話した。
つくづく面倒くさい親子だ。
ついでにいえば、先ほどミツセに確認したところ、十和企興に仕事の依頼をしたのは事実だが、ハルモニアとの件を話した記憶はないとのことだった。おそらくミツセのもとを訪れた際に、ハルモニアからの郵便物かなにかを目にし、ハルモニアが百周年という節目という情報とを組合わせて、推測してカマをかけたのではないかとのことだった。
蒼弥も、そんなところだろうとは思っていたのだ。
本来なら、そんな品のない交渉術に出るような奴と仕事をするつもりはないが、全ては萌依を守るためだ。
だというのに眞希子は、蒼弥に意味深な眼差しを向け、萌依を言葉で牽制する。
彼女のその振る舞いはただただ不快で、一秒も早く萌依を連れてこの場を立ち去りたいのだけれど、ふたりに話しておきたいこともある。
それで萌依がお手洗いに行くと言って場を離れると、蒼弥はその背中を追いかけることなく館野親子と向き合った。
「先日話されていた仕事の件ですが、ミツセ氏の了承を得られたので一部の業務を十和企興さんに委託したいと思います」
蒼弥の言葉に、館野親子の表情に喜色が浮かぶ。
おそらく週明けには、自分おかげで一度はコンペで競り負けたハルモニアの仕事に割り込むことが出来たと大きな顔をするつもりなのだろう。
(好きにしておけばいい)
そしてその後で恥をかけばいいのだと、敵認定した相手には容赦ない蒼弥は心の中で舌を出す。