【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
第四章:過去にさよならを、そして十年越しの想いを



***



 「──やっと会えたね、悠里」


 その声を聞いた瞬間、社員証を手に取って会社のビルへ入ろうとした悠里の足がピタリと止まる。

 本格的な冬の訪れを目前にした冷たい風が吹き抜けるビルのロータリーにいたのは、悠里の元彼である裕一だった。


 これまで何度も悠里が車検やオイル交換などの手入れをしてきた黒塗りの車の前に立って、穏やかな表情を浮かべる裕一に、これまで必死に押し殺してきた恐怖心や怒りが一斉に押し寄せてくる。




 「悠里、どうして僕の連絡を無視するの?あのマンションだって突然出て行ってしまったし……心配したんだよ?」

 「な、んで……ここが?」

 「君の転職先を調べるくらいどうってことないさ。そんなことより、もう一度ちゃんと僕と話し合おう?」



 なぜ堂々と悠里の前に現れることができるのか。

 どうして平気な顔をして話しかけてくることができるのか。

 悠里は一ミリも理解できないまま狼狽えた。




 「住むところはどうしているの?もしかしてまたホテルにいるわけじゃないよね?あそこは疲れも取れないだろうし、僕のマンションに帰っておいでよ」

 「……いで」

 「だいたい僕は勝手に君が会社を辞めたことだって賛成はしていないんだよ?あれから君の後任を見つけたり仕事の引き継ぎですごく大変だったんだからね?」

 「来ないでっ」







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