【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
不気味なまでに優しげな笑顔を浮かべて、悠里のことをいかにも本気で心配しているような素振りを見せる裕一に、悠里は思わず後退りしてしまう。
悠里の心を傷つけた張本人が、今、目の前にいる。
一緒に住んでいた家を出て行かなければならなくなったのも、会社を辞めなければならなくなったのも、すべて裕一のせいだ。
悠里の二十八歳の誕生日のあの日、裕一は豪華な日本料理の店に彼女を呼び出した。
プロポーズされるのではと密かに胸を躍らせていた悠里の元へやってきたのは、裕一と、その結婚相手だった。
『……誰?』
裕一の隣で気まずそうに顔を俯けていたその女は、最初こそわからなかったけれど、広報誌などで見かけたことのある顔だった。
『悠里も見たことあるだろう?うちの社長の娘さんだよ、堀米伶菜さん』
『どうして……その方が隣に?』
『すまない、悠里。今日は君と別れるために、ちゃんと説明をしたくてここに呼んだんだ』
裕一はそう言って悠里の前に座って、淡々と事のあらましを説明していった。
『社長の勧めで伶菜さんと出会った』
『最初は会社の話をするようになっていったのだけど、お互いに惹かれ合ってしまった』
『そうしているうちに社長からも、うちの娘はどうかと話を持ちかけてれたんだ』
それが堀米と一緒にやってきた裕一の酷い言い訳だった。
耐えきれずに部屋を飛び出して行った悠里を追いかけてきた裕一は、彼女の腕を強引に引っ張りながらさらに言葉を続けた。
『悠里、よく考えてごらんよ。僕はこれで会社の雇われ社員から役員になることができるんだ』
『もしかしたら経営側の席に身を置かせてもらえるかもしれないんだよ?』
『悠里だっていつも僕が昇給できるように支えてくれていただろう?喜んではくれないの?』