拗らせ俺様が犬系彼氏になった理由
成長する人
深見朔弥は、人からの助言を忠実に守る人間だった。
華に自分の言動がいかに痛々しいかぶった切られた後、彼は家に帰って猛烈に反省することになる。
周りからやけに距離を置かれていることは事実だし、華が嘘をついているとはまるで思わなかった。むしろ、急に誘ったのにお茶をしながら正直に意見を言ってくれた華には感謝していた。(正直すぎてHPが激減したが)
朔弥はその後、すぐに華の言う通りに動くようにする。
まず同僚全員に『さん』付けをするようにした。冷静に考えてみれば、上司ですらみんなに『さん』付けをしているというのに、なぜ自分だけあんな風に呼んでいたのか。少し考えれば分かることだったのに、と今なら思う。
それからとりあえず、いつもの決め台詞はやめておいた。朔弥が決め台詞だと思っているものこそ爆弾だと知ったからだ。まずは、黙ること。淡々と用件だけ伝えて、余計なことは言わない。朔弥はこれに徹した。
出来れば、何か気の利くことを言いたい……かっこいい事を言いたい……! と内心思ってはいるものの、何を言っていいのか分からない。黙る以外、彼に選択肢はなかったのだ。それもこれも、長年培った少女漫画脳のせい。思考回路は、そう簡単には変えられない。
今日も寒空の仲、昼休みに屋上に来た朔弥は、朝コンビニで購入したおにぎりを頬張りながら隣に座る華をちらりと見た。
華は作って来たらしい弁当を黙々と食べている。伸びた背筋、きっちり結ばれた髪。華はいつ見ても変わらない。
カフェでお茶をして以来、時間があれば自然と屋上で会うようになっていた。外で昼を食べることもあるので毎日は会えないが、お互い時間が合えばここで昼を食べるようになっている。
「あのー佐々山さん。最近の俺、どう?」
おずおずと朔弥は尋ねる。華は卵焼きを食べながら言う。
「いいと思いますよ。余計な事言わないようにしたんですね」
「その代わり何を言っていいのか分からなくてちょっと挙動不審になってる気がするんだけど……」
「変な発言をするよりよっぽどいいです」
喜んでいいのだろうか? 一瞬迷った朔弥だが、成長していると思えばいいか、と自分で結論付けた。
「まあ確かに、変な空気が流れることは無くなったんだ。仲良くなれてる感じはしないけど、浮いてる感じもしないっていうか」
「最初のインパクトが強いのでなかなか覆せないと思いますが、そのうち何とかなると思います。とりあえず今みたいに余計なことは言わないのが一番です」
「でもさ、今は業務事項しか伝えてないから、一言ぐらい何かいいたんだけど……でも言おうとすると、何を言っていいか分からなくなるんだよ」
朔弥は困ったように言いながらおにぎりを頬張る。
「……普通でいいと思いますけど。今みたいに」
「え、今みたいな? うーん」
「深見さんは自分で気が付いてないかもしれませんが、あなたは外見も中身も、どちらかと言えば人懐っこくて可愛らしい雰囲気ですよ」
「かかか可愛らしい!?」
飲み込もうとしていたおにぎりを詰まらせそうだった。そんなこと、いまだかつて言われたことはない! 自分が目指してきたものと正反対すぎる。
「でも男としてダメじゃんそれ!」
「何言ってるんですか。女性から可愛いと思われるのは重要ですよ。かっこいいより難しいかもしれません。十分恋愛対象にも入ると思いますしね」
難しい。朔弥は頭を抱える。
漫画ではあんなに男らしくて頼りがいがあるヒーローじゃないか。可愛いからは程遠い気がするんだが……。