拗らせ俺様が犬系彼氏になった理由
「大島さん。この書類だけど、数字が違ってる」
そんな声が聞こえて美鈴が振り返ると、朔弥が書類を持ったまま立っていた。まさか朔弥だと思っていなかった美鈴は少し驚いた。なぜなら彼は、いつも『大島』と、親しくもないのに呼び捨てする人だったからだ。
見てみると、確かに美鈴が担当したもので、数字が間違えている。
「あ、ほんとですね……すみませーん!」
美鈴は申し訳なさそうに眉尻を下げて謝った。間違えてしまった時は大概、こうして真摯に謝っておけば大概許してもらえる。朔弥もそうだろう、と踏んでいた。
(ただこの人の場合寒いセリフ言ってくるけど。『俺が見なきゃダメだなほんと』みたいな?)
心の中で馬鹿にしながら見上げると、普段は自信に満ちたような顔をしていた朔弥は、困ったように視線を泳がせていた。何事かと、美鈴はきょとんとする。
「あー……修正したらまた持ってきてもらえると、ありがたい」
「あ、はい」
「じゃ」
朔弥はそのままそそくさと去っていった。不思議に思った美鈴だが、すぐにピンとくる。
(あー連絡先の交換を断ったから気まずいのか。案外メンタルよわー)
ああいうのはしつこく聞いて来るのかと思っていた。プライドが高いから、断られるとすぐに落ち込んでしまうのだろうか。
何にせよ、あの寒いセリフを言われないのはありがたい限り。
(黙ってれば顔もいいんだしね~さて、適当に仕事しよっかなー)
美鈴は鼻歌を歌いながら仕事を再開した。