拗らせ俺様が犬系彼氏になった理由

大事なプレゼント



 田舎に住む姉が『そっちにしか売ってない限定品だから、買って送ってほしい』と頼んできた化粧品を買うのは、朔弥にとってなかなかの試練だった。化粧品売り場に足を踏み入れるとぶわっと香る独特の匂い。女性だらけの空間。同じような物が並んで、間違えないように買わねばならない緊張感。

 都会に出てきてまだ三ヵ月ちょっと。人の多さもキラキラした街並みも、まだ慣れていない。

 ガチガチに緊張しながら姉が希望するブランドの売り場へ行き、何とか目当ての物を購入した。朔弥が困っているのに気づいたらしい店員がすぐに声をかけてきてくれたので、姉に指定されたものを告げてすぐに入手できた。これで間違いはないはずだ。

 やけに化粧が厚めの店員がにこやかに商品を包んでいる時、朔弥はソワソワと辺りを見回していた。

(ほんと化粧品の種類って多いんだな~女性は大変だなあ~)

 リップの色からアイシャドー? の色まで、こんなに種類が豊富とは。ファンデーションの色までこんなにあるなんて知らなかった。

(自分が女だったら選べなさそう……みんなどうやって決めるんだ? 男でよかったのかも……)

 自分は痩せて、それから髪はちゃんとした美容室で切ってもらって、服はマネキン買いをしてあか抜け出来た、と思っている。でもここに化粧とかあったら、もっと困難だっただろう。技術もいるんだしなあ。しかも高い! 化粧品ってこんなに高いのか!

 ふと、先日の華の言葉を思い出した。

『何をしたらいいか分からないんですよね。何が自分に似合うのか、とか』

(……確かにこれだけ選択肢が多いんじゃ、分からなくなりそうだ)

 華の言っていた理由がようやく分かった気がする。

(でも佐々山さん、絶対いろいろ似合うと思うんだけどなー)

 確かに職場ではあまり目立たないタイプだけれど、眼鏡の下にある強い色をした目は印象的だと思った。派手な顔立ちではないが、黒髪に白い肌はこう、人形みたいで……。

 華の顔を思い浮かべつつ近くにある化粧品を見ていると、あるところで視線が止まった。置いてあるリップの色が、華に似合うと思ったのだ。

 じいっとそれを見つめる。

(いろいろ助言貰ってて、この前お礼するって言ったしなあ……)

 考えながら手を伸ばしたところで、すぐにバッと引いた。

(さすがの俺も、化粧品をあげるのはアウトだって分かる……!)

 姉もそうだが女性は化粧品にこだわりがあるらしい。自分に合う色だとか、肌質だとか、とにかく事情があって、男が好き勝手買って贈るのは地雷だという。

 しかもただの同僚に送られるなんて……。せっかく最近の言動はマシになって来たって言われたばかりなのに。

 そうだ、しかもこの前、付き合ってもいない女性に貢ぐなと言われたばかりじゃないか!! 
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