拗らせ俺様が犬系彼氏になった理由
トイレから戻った美鈴は、すぐに会場内にいる朔弥の居場所を探した。ラインは交換済み。あとはこの飲みの席でもう少し話せれば、彼のことがもっと分かるだろう。
(元々顔は好みだったし、ちょっとくらい付き合ってあげてもいいかもしれない。まあ、もっとよく見極めないとだけど)
よくよく考えると、仕事はできるから出世は早そう。顔よし、スタイルよし。あとは自分にべた惚れにさせて性格も矯正出来れば、完璧な男が仕上がるじゃないか。
(まあ、もうとっくにべた惚れっぽいんだけどね~)
上司から庇ってくれたのだから、間違いない。現に、私からラインを聞いたら嬉しすぎて固まってたし。まあすぐに勘違いされても困るから、とりあえず数人で飲みに行ってみよう。もしいい感じだったら二人で出かける。そうすれば勝手に向こうが告白してくるだろう。
「美鈴美鈴! 見たよ、さっきの~!」
仲のいい友人がこそっと話し掛けて来る。友人は目を輝かせて美鈴を見ていた。
「深見さん。覚醒したんじゃない? 美鈴を庇っててちょっとカッコよかったんだけど!」
「あー私もちょっとびっくりしたかも」
「最近、普通に話せるようになってきてどうしたんだろうって思ってたんだけどさ。美鈴にフラれて自分の言動改めたんじゃない?」
「えーやっぱりそうかな?」
「絶対そうだよ! だとしたら結構いいんじゃない? だって、言動さえ直せばかなり優良物件だよあれ。美鈴に釣り合う男なんていなかったからさー」
美鈴はふふっと笑って曖昧に誤魔化した。
(やっぱりそうだよねえ。まあ、ダメなところを治してくれたなら前向きに考えてあげてもいいけどー……様子見しないとだなー)
美鈴は視線を動かして朔弥を探しているが、会場内に朔弥の姿を見つけられない。不思議に思っていると、かなりすみっこの方にいたので驚いた。
彼は華の隣に座っていたのだ。
地味で愛想もない、結婚相手に逃げられた哀れな女の横に。
ぴくっと美鈴の頬が引きつる。
(……はあ? お前は幹事の仕事だけしてろって)
さてはさっき朔弥が庇ったのは自分だと思ってる? それで、彼が一人で飲んでいるところへ向かったのか。滑稽にもほどがある。あの人は私を庇ったのであって、お前はおまけなのに。彼はトイレに行った私をずっと待ってただろうに、あんな女がそばに来て迷惑がってるに違いない。
唖然としていると、朔弥が笑ったのが見えた。いつもの気取った笑い方じゃなく、可愛らしい笑みだ。そしてその隣には、普段より表情が柔らかな華。
その光景が、やたら美鈴を苛立たせた。
和やかに飲む二人の後ろから、美鈴は悪意のある視線を送っていた。