拗らせ俺様が犬系彼氏になった理由

自分が何を使いたいか




 二人が待ち合わせをしたのはそれから一週間後の土曜日だった。

 朝早く起きた華は、緊張しつつ準備をした。実は昨晩、緊張でなかなかすぐに寝付けなかった。こんなふうになるのはいつぶりだろう。

「まさか深見さんと出掛ける日が来るなんて思ってなかったから……」

 彼は自分が失くしたリップを、一緒に買いに行こうと言ってくれた。男性と二人きりで出かけるなんて、元カレ以外に経験がない。それに、朔弥は見た目は結構目立つ方なので、自分が隣に並ぶのは申し訳ない気がした。

 持っている服の中で出来るだけ綺麗な物を選び、今日だけはコンタクトにした。髪も下ろし、念入りに整える。でも、鏡の中の自分は相変わらず地味で存在感が薄いままだった。せめてもう少し、華やかにならないものか。

(でも、変に気合入れて似合ってなかったら、恥ずかしい思いをさせてしまうかもしれない……)

 そんなことを未だに考えてしまう弱い自分。はあとため息をつきながら、華は家を後にした。

 待ち合わせ時間の十五分前。華はドキドキしながら到着し、必死に自分を落ち着かせた。心臓が口から飛び出してしまいそうだ。何度も意味なく髪を梳いてしまう。最後にもう一度鏡を見ておこうか。いや、見るほどのものでもないけれど……。

 寒さで冷えてしまった指先をさすりながら俯いていると、背後から声がした。

「あは、やっぱり早!」

 振り返ってみると、朔弥が笑って立っていたので華の心臓が跳ねる。少し癖のある髪を揺らしながら笑っていた朔弥は、華を見て少し目を丸くした。

 華はやや上ずった声で言う。

「は、早いですね……!」

「あ、佐々山さんは絶対早く来る気がして……今日、眼鏡じゃないんだ?」

 朔弥はまだ驚いたように華を見ながら、目元を指さす。

「あ……はい。たまに使うんです、コンタクト。眼鏡の方が楽だからいつもそうしてるんですけど……」

「……髪、下ろしてるところ初めて見た」

「……そう、ですよね」

 華はやたらドキドキしてしまう。変だっただろうか? いつも通りの方がよかったかな。

 だが朔弥は、すぐにふっと目を細めた。

「凄い。印象がだいぶ違う。そっちもいいね」

「……へっ」

「あっ。ごめん、今の痛かったかな!?」

 朔弥はすぐに慌てふためいたが、華は静かに首を横に振る。そっち『も』なんて、彼は十分私を気遣ってくれている。

 大したおしゃれも出来ず、ただコンタクトと髪のセットをしただけの自分に、そんな優しい言葉をくれるなんて。

「大丈夫です。ありがとうございます」

「よ、よかった。あー……じゃ行こうか。俺、丁度姉にお使いを頼まれててさ。一人でまた行くの心細かったからありがたい」

「ああ、例のお姉さまですか。化粧品ですか?」

「そう。この前も限定品が―って言うから買って送ったのに」

「ふふ、仲いいんですね」

「下僕だよ俺は。こっちこっち」

 朔弥に言われるがまま一緒に歩き出す。だがすぐに、周囲の女性が時折ちらちらと朔弥を見ていることに気が付いた。彼は元々整った顔立ちをしていて目立つのだと思い出す。田舎育ちで太っていたこと、あとあの間違った言動があったことで女性に縁がなかったようだが、元々は確実にモテる側の人間だった。

(注目されてる……)

 朔弥が注目されるということは、自分も見られるということ。

 華は少しだけ気まずく思った。

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