拗らせ俺様が犬系彼氏になった理由
相談
深見朔弥が入ってきたとき、間違いなくうちの部署はざわめいた。
可愛らしく犬っぽい人だった、と華は思い返す。どこか少年っぽさを残したまま成長した、母性をくすぐるタイプ。笑った時に目が少し垂れる姿は、誰から見ても素敵な人だった。
『深見朔弥です。よろしくお願いします!』
仕事が始まった直後、女性社員たちがこぞって話しかけていた。異動してきた流れや地元について、みんなはしゃぎながら質問していたものだ。
だがその光景はあっという間に変化した。
彼はどうも、『やたら痛々しい言動が多い』男性だったからだ。
「はあ……何がいけないか、ですか」
華は首をかしげる。朔弥本人は、至って真剣だった。
「佐々山は口が固そうだし! いつも冷静だし! 適任だと思って!」
「まあ雑談とか苦手なので、口が固いという点だけはそうかもしれませんが……」
「あのさ!! 俺って部署内で浮いてない!?」
朔弥は必死の形相で華に尋ねた。華は少し目を丸くする。
「自覚あったんですか」
「…………!!?」
「てっきり、周りの目なんて気にしない方かと」
朔弥はへなへなとその場にしゃがみ込んだ。顔面蒼白、今にも倒れてしまいそうな顔色に、華はしゃがみこんで心配する。
「大丈夫ですか?」
「……やっぱそうなんだ……俺嫌われてるんだ……」
「嫌われているとは言ってません。ただ、あまり関わらないようにしようとは思われてると思いますよ」
容赦ない華の言葉に、朔弥は再びダメージを受けて瀕死状態になった。なんというストレートパンチ。華の言葉には一切のごまかしもない。
朔弥はがくりと項垂れた。
「……やっぱ、田舎者ってわかっちゃうのかなあ……?」
「え?」
「それとも、元々太ってたオーラとかがある……?」
「太ってたんですか? 深見さん」
「社会人になって一生懸命生まれ変わったつもりなんだけど……」
朔弥はもはや地面一点を見つめてぶつぶつと一人で呟いており、どこかの亡霊と勘違いしそうだった。華は朔弥の意外な顔に、少し面食らった。
(あのキャラは無理やりしてそうだな、とは思ってたけど……)
想像以上に繊細な人みたいだ。じゃあ、何であんな痛い言動をしているの?
これまで華は朔弥の言動を、遠目からなまぬるーい目で見守って来た。
彼は仕事は出来た。細かい部分まで気が回るし、そこは誰しもが認めるだろう。ただ、同僚に、特に女性に対してはやけに変な態度を取ることが多々あった。顧客に対してはスマートで良識のある言動が出来るのに、なぜか社内でだけは変だった。
上から目線というか、子ども扱いしているというか、なんというか……。
ただ、彼があえてそういう態度を取っているんだろうなあと漠然と気が付いていた。
「深見さん、何であんな──」
華が尋ねようとした時、朔弥が突然飛び上がった。
「しまった! 午後から重要な会議があるんだった!」
「あ、もうそんな時間ですか」
「佐々山!」
朔弥は華の肩に両腕を載せる。
「帰り、会社の隣にあるカフェで落ち合おう!!」
「……ええ……?」
華が少し嫌そうな顔をしたことに朔弥は気づかず、そのまま屋上から走り去ってしまった。