ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。

エピローグ:それでも、まだ足りない


 この街へ来て、一週間が過ぎた。

 結露で白く曇った窓ガラス。
 表面を指先でなぞり隙間を作ると、厚い雲の下、華やかな街並みを縫うようにカラフルな車が行き交っている。

 凍てつくような外の空気と、暖房の効いたこの部屋とでは、まるで別世界のようだ。


「マナ。淹れたよ」

 背後から、柔らかな声で呼びかけられる。

 ゆっくり振り返ると、ローテーブルには湯気が立ちのぼるマグカップがふたつ並んでいた。
 鼻を掠めるのは、私の大好きな香り。

「ありがとう」

 ソファに並んで座り、カップに両手を添えた。
 触れ合う右の肩先と、陶器を包む手のひらから、ぬくもりが広がっていく。
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