ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。

 気づけば、廊下の先から響いていた音は止んでいた。

 ギターを抱えて部屋に戻ろうとする隣人と、マナの肩越しに目が合う。
 欧米人らしく大袈裟に瞳を見開き、口の形だけで『ワーオ』と呟いていた。

 マナを抱き込んだまま、目線だけで感謝を伝える。
 ニヤリと笑った彼は、片手を軽く上げて見せた。

 パタン。

 ひっそりと開かれた隣のドアが閉まった。

 その音を、合図にするように。
 俺たちは、夢中でその唇を重ね合わせた。

 離れていた間の、互いの渇きを潤すように、何度も。

 やがて、扉の向こう――部屋の中へと、共に吸い込まれていく。
 鍵が回された音が響くと、誰も邪魔することのできない二人だけの世界が完成された。
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