ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。
第零章
「一度目」の始まり
高校生活最後の、十二月。
期末テストから解放された身軽さのまま校舎を出て、吐く息が白く滲む通学路を急ぐ。
やがて、駅入り口の柱へ寄りかかる見慣れたシルエットを捉えた。
私の来る方向はわかっているはずなのに、いつもそっぽを向いている、生意気なくらい整った横顔。
毎回、必ず先に着いて待っている。
「ハルっ」
駆け寄って、声をかけた。
「……ん」
出会い頭の反応が淡白なのも、通常運転だ。
秋の文化祭で知り合ってから、約二か月。
恋人同士ではないのだけれど、なぜか週に一度は、会っている。
友人たちが受験の大詰めを迎える中、すでに専門学校への進学が決まっている私。
水泳のスクールには通っているけれど、部活には入っておらず、放課後を持て余しているハル。
お互い、気楽に誘いやすい相手というだけ――のはず。
学校の最寄駅が同じなので、駅で落ち合いその周辺で遊ぶことが多い。
しかし、今日の彼は、改札のほうへ足を向けている。
「あれ? どこ行くの?」
その背中を追いながら、確認した。
「今日、寒いし。暖かいところ行きたい」
マフラーに口元を埋めたまま、呟かれた。