ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。
 ◇

 連れてこられたのは、隣駅にある大きな映画館。

 シアター内の照明が落ち、予告編の映像が流れ始めた、そのとき。
 膝の上に置いていた右手が――隣から伸びてきた左手に、何の躊躇もなく覆われた。

「えっ……なに?」

 暗がりの中、戸惑って小声で尋ねる。

「別に?」

「別に、って……」

 肘掛けを越え、すっと顔を寄せられた。

 そして。


「初めて?」


 からかうような、余裕を含んだ響き。
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